第425話 裏切り(6)
そのころ、ハトネンは一之祐と一対一で対峙していた。
「一之祐! お前! ここをどこだと思っているんだ」
「砂の上だろ?」
「バカか! 魔人国のフィールド内だよ!」
「そうだったのか! てっきり、ハトネン! お前の便所かと思ったぞ!」
「砂のトイレは猫だ! 猫! バカも休み休み言え! 大体、今のお前は、騎士の盾も使えないんだぞ! 分かっているのか」
「お前こそ、バカはたいがいにしとけよ。俺はな、これでもお前よりかは、ちぃとばかり賢いと思っているんだ」
「それなら、もの凄い賢いと言いたいみたいだな!」
「お前バカだろ! お前が賢いわけないだろうが! だが、そんなお前より、俺は、イチゴ一個分だけ賢い!」
「何がイチゴ一個分だ! お前の脳みそがイチゴ一個分だ! この脳筋バカが!」
「なら、お前の脳みそは干しブドウ一個分だな! まぁ、ネズミのウンコらしくていいではないか! ワハハハハハ」
「俺はネズミではない! ドブネズミだ!」
「一緒ではないか!」
「クマネズミなどと一緒にするな」
「どっちも害獣だ! ボケ! とっと地下のねぐらに帰れ!」
「アホか! 地下などスラムの巣窟で、そんなところに行ったら食べられて死んでしまうわ!」
「知るか!」
「一之祐! 犬のようにワンワン吠えていられるのも今の内だぞ!」
「どうするというのだ! 言ってみろ! ネズミ!」
「ネズミというな! フン! まぁ、いいだろう、俺の後ろを見てみろ、今、お前を従えるために女神がこっちに来ているのが見えるだろうが!」
「うーん、黒い女神?」
「一・之・祐! お前は色が分からんのか! 白だ! 白!」
「うーん、俺にはどう見ても黒にしか見えん……しかも、あれ、女神? いや、あまりにも醜すぎだろ!」
「馬鹿め! お前にとって女の顔など、どれも一緒に見えるのであろう! この脳筋バカが! ちっとは女に興味を持て! じゃないと繁殖できんぞ! 繁殖!」
「いやぁ……確かにハトネン……お前が言う通り、俺には、女の顔はどれも一緒に見えてしまうが、さすがに女と魔物ぐらいの区別はつくぞ……」
「ま・も・の? 一之祐! 今、お前! 魔物と言ったか?」
「おう! 魔物と言ったぞ!」
振り向くハトネン
そこには、怒涛の勢いで駆けてくる魔物群れ! 群れ! 群れ!
ハトネンの全軍が、全速力で、一目散に駆けてくる姿があった。
ハトネンは、思う。
何で魔物の群れがこっちに戻ってくるのだ。
俺は、ディシウスとソフィアを叩きつぶせと言ったはずなのに。
そうか! もうあの二人を食べつくして、今度は俺の加勢に来てくれたのか。
いままで、どいつもこいつも、俺の命令を適当に聞いていたもんだから、てっきり、俺の事なんて、どうでもいいと思っていた。
違った……こんなに、俺を必死に助けようと思って……うっぅぅぅぅ
うーん、なんという主人想いの部下たちなのであろうか。
「おーい、お前たち! 俺を助けに来てくれたのかぁぁぁぁ♡」
ハトネンは嬉しそうに手を振った。
アホを見るような目で一之祐、しかも、逃げ腰でハトネンに忠告する。
「おい、アイツらのあの目、どう見ても前を助けに来たようには見えんぞ……あれは、ちょっとやばいんじゃないか……」
走りくる魔物たちの緑眼の瞳孔が完全に開いている。
既に焦点が合っていない。
にもかかわらず、ただひたすらに、こちらに向かって駆けてきているのだ。
しかも、口からはよだれを引きながら、一心不乱に。
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