第111話 凋落のエメラルダ(3)

 連れ去られたエメラルダは王宮の地下牢獄にとらわれていた。

 暗い牢獄内は、積み重ねられた石壁により、一層、温度が冷たく感じられた。

 部屋の中央にエメラルダが、鎖によって両の手を頭上で吊り下げられていた。

 一糸まとわぬエメラルダは、女の全てをさらけ出されていた。

 唯一、無造作にうなだれた金色の髪が、胸をかろうじて隠していた。


 牢獄の鍵が開き、アルダインと数名の男が入ってきた。そして、遅れてネルも入ってくる。

 ネルは、少し震え、エメラルダから目を反らした。

 アルダインは、楽しそうにネルの肩をだく。


「懐かしいだろう。お前もあんな感じであったな」

 肩を抱いた手がネルの胸へと降りてくると、服の中へと滑り込んだ。

 ネルは、抵抗せず、顔を赤らめた。


「私をどうする気だ!」

 エメラルダが、気丈にも顔を上げアルダインを睨んだ。

 ネルはエメラルダの視線を避けるかのように目を反らす。

 アルダインは、ネルから手を放すと、エメラルダのアゴをつかみ上げた。


「もう、お前は、騎士ではなく、ただの罪人だ。奴隷よりも下の身分よ」


 アルダインは、エメラルダの体をなめ回すかのように見る。


「ワシに、救済を申し出て、奴隷になってはどうじゃ。刻印も皮だけキレイに剥いでやるぞ。嫌なら、胸ごとじゃ」


 笑うアルダインは、エメラルダの左胸の騎士の刻印をいやらしく撫でたかと思うと、まるで包丁で切るかのように、胸の付け根に右手の手刀を押し付けた。


「さらに、ワシに忠誠を誓い子を産めば、このネルのように神民にまで戻してやるぞ」


 エメラルダはアルダインをにらみつけ、唾を吐きかける。


「そうか、それがお前の答えか。それはそれで面白い。せいぜい、可愛く歌ってくれ」


 アルダインは、ネルへ手を差し出す。

 ネルは、箱の中から奇妙なナイフを取り出しアルダインへと手渡した。

 そのナイフは柄が手の形をした禍々しいものであった。

 それを合図にするかのように、エメラルダの両脇を屈強な男二人がつかみ、背に手を押し当てエメラルダの体を反らせた。

 アルダインはニタニタと笑いながらエメラルダの左胸の付け根にナイフをゆっくりとあてる。

 ナイフの境に血が浮き出てくる。

 左胸を伝った血が、ピンク先端を赤く染めると、滴り落ちた。

 ノコギリのようにナイフをスライドさせる。

 そのたびに、左胸が醜く歪む。

 しかし、エメラルダ守るべきの騎士の盾は、まだ騎士の刻印がエメラルダにあるにも係わらず発動しない。王でなく、同じ騎士であるアルダインに危害を加えられているにも関わらずだ。


 悲鳴を上げるエメラルダ。


 その悲鳴を楽しむかのように、アルダインは、ゆっくりとナイフを動かす。

 左胸が、徐々に垂れ落ちてくる。

 ナイフを無造作に動かしているためか、切断面が痛々しい。

 エメラルダの体が、痛みに耐えかね痙攣をはじめる。

 ほどなくして口から泡を吹き、意識を失ったエメラルダは、その場で失禁してしまった。

 アルダインは、左胸を切り終わると、周りの男に止血をしておけとを命令する。


 口から泡をふくエメラルダを見ながら、いやらしく笑うアルダインは、エメラルダの背後に回った。

 エメラルダの腰に自らの腰を激しくぶつける。

 残った右胸が大きく揺れる。

 アルダインの動きに合わせ左胸から血が舞い散る。

 ネルがつらそうに顔を背け、目をつぶった。


 暗い牢獄に、淫靡な音と鎖のきしむ音が響き渡る。


「アルダイン様、そんなに激しく動かれますと止血が出来ませぬ」

 止血をする男は困った様子で声をかけた。


 聞く耳を持たないアルダインは、さらに激しく動く。ほどなくして動きを止めたアルダイン。エメラルダの太ももに白い滴が垂れた。


「今の判断を死ぬまで後悔させてやる」


 エメラルダから離れたアルダインは、ネルの前にやってくると、アゴで合図する。


 ネルは、アルダインの前に静かに膝まづいた。

 嘔吐を堪えるネルの目は、悲しみの涙をこらえるのがやっとであった。

 その涙は、エメラルダに向けられたものなのだろうか、それとも、自分の過去に向けられたものなのだろうか。

 動きを止めたアルダインが離れると、ネルの口から白いクリームがこぼれ落ちた。



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