第68話 激闘!第六駐屯地!(34) 決着!
少し時間を戻そう。
内地ではタカトと蘭華がダンスバトルをしているころ。
そして、第六の駐屯地では城壁の裂け目から外へと飛び出したヨークたちが魔物の群れの中で激闘を繰り広げていた頃合いである。
空には宵の明星が輝きはじめうっすらとあたりを暗くする。
そんな城壁の上ではカルロスとダン●ン(仮称)の最後のバトルが繰り広げられていた。
大きく反り返るダン●ン(仮称)の口からは
そして、カルロスもまた、ダン●ン(仮称)から伸びる玉袋を叩き切らんと円刃の盾を回転させるのであった。
そう、この玉袋にはスライムの核が収まっている。
この核を潰せばスライムは確実に死ぬのだ。
そのため、カルロスは最後に残された力で渾身の一撃を放つ!
「
だが、高速回転する円刃の軌道をダン●ン(仮称)の触手が作った肉の壁が阻むのだ。
「
速度を上げるカルロスの体。
だが、触手もまた次々と壁を作り出す。
「
しかし、最後の力を振り絞るカルロスの回転はさらに加速する。
そして、ついに最後の肉の壁が切り裂かれたのだ。
その隙間から覗くダン●ン(仮称)のタマタマ!
あれさえ潰せばチェックメイト!
「くたばれぇぇぇえ!
最後の一撃をタマタマがけて振りぬくカルロス。
だが、それよりも一瞬早くダン●ン(仮称)の口の中で白く輝く光が力を増したのであった!
――ちっ! 間に合わんか!
ドゴゴっごごおごおおおおおおん!
激しい衝撃音が周囲の空気を震わせた。
城壁の上にまばゆいばかりの光の柱が立ち上る。
それは駐屯地の上空をまっすぐに貫くと空の彼方へと消えていった。
「この変態があぁぁぁぁぁぁ!」
今にも
ダン●ン(仮称)のアゴがガツンと勢いよく閉じたのだ。
それはカルロスの背後から飛び込んできたエメラルダの強烈なひと蹴り。
まっすぐに伸びた細い足先に従ってダン●ン(仮称)の下アゴが上空へと跳ね上がる。
そして、口の先が天にまっすぐ向いた瞬間、ついに感極まったダン●ン(仮称)はフィニッシュを迎えた!
どびゅっ! といわばかりに白い光を薄暗い空へとむけて発射したのである。
キモチイイィィィィ♥
って、SMプレイかよ!
しかし……エメラルダさん……言うに事欠いて、変態って……
もしかして、このダン●ンの形、いや、そういうプレイをしっかりと理解されているのでしょうかねwwww
「エメラルダ様!」
瞬間、カルロスの声がうわづった。
「カルロス! 今よ! さっさと潰してしまいなさい! 金玉を!」
いや……それは金玉ではなくてスライムの核です……
だが、今はそんなことはどうでもいい。
せっかくエメラルダ様が作ってくれたチャンスなのだ。
カルロスは、最後の力を振り絞り最後の一撃にかけるのである。
「
勢いよく上段から振り下ろされる円刃の盾。
伸びる鎖が激しく湾曲していく。
そして、遅れて響く衝撃音!
ドゴゴっごごおごおおおおおおん!
激しい振動が城壁を伝わり……消えていく……
今や静まり返った城壁の上。
動きをピタリと止めたダン●ン(仮称)の体が、まるで巨木が倒れるかのようにゆっくりと、ゆっくりと傾きはじめた。
そして、ついにダン●ン(仮称)の体が城壁の石床にぶつかったかと思うと、それは大きな水風船が弾けるかのように内側に蓄えられた大量の茶色い液体をまき散らしたのだ。
瞬間、あたり一面に広がる下水の匂い……いや、それは肉の腐った匂いと糞尿の匂いが入り混じった腐臭である。
とても目すら開けていられない。
先程までダン●ン(仮称)の体がそそりたっていた場所には強烈な腐臭を漂わせる大きな水たまりができていた。
その中には人のモノとも魔物のモノとも分からぬような溶けかけた体組織がちらばる。
そんな肉の塊を平然と踏みしめて歩く女性。それは第六の門の騎士エメラルダであった。
肩から長く垂れる金色の髪を、まるで邪魔だと言わんばかりにサッと手で払うと、ひらめく前髪から切れ長の美しい瞳がのぞく。
そんな瞳はすでに次の敵、すなわち駐屯地の外の魔物たちに向けられていた。
強烈なにおいにもかかわらず、まったく気にする様子もなくスタスタと城壁の縁へと歩いていくスラリとした体。
その体に身につけられているのは動きやすいようにとレオタードのみである。
そんなレオタードが彼女の白い太ももをあらわにする。しかもそれどころか、前に開いたひし形の隙間からは、その細身の体には似つかわしくない豊満な胸が収まりきらずにはみ出して、その真ん中に深い谷間を作り出していたのだ。
気品ある立ち振る舞いとは裏腹に内面からあふれ出す大人の色気。
そんな色気は男達を虜にすることは間違いないだろう。もし、この世界にお嫁さんにしたい女性ランキングというものがあったとすれば、ぶっちぎりで一番になるのは明らかである。
「カルロス。ご苦労さまでした」
「エメラルダ様、申し訳ございません……不肖カルロス……このような失態を……」
カルロスの体は、すでにボロボロ。
おそらく立っているだけでも精一杯、それでも、主であるエメラルダの足元で控え、この駐屯地の有様を詫びているのだ。
だが、エメラルダはそんな事を咎めることもなく、城壁に縁に足をかけ外の様子をうかがっている。
そして、カルロスに尋ねるのだ。
「ガメルは見えますか?」
「はっ! フィールド境界にて、こちらの動きを警戒しております」
カルロスは膝まづいたまま答えた。
「そうですか……少々距離がありますが……」
と、言い終わるとエメラルダはカルロスに手を伸ばす。
「黄金弓を私に」
「はっ! ここに!」
カルロスは膝を動かし前に出ると、手にする黄金弓を両手で頭上に掲げた。
「魔血タンクは?」
「申し訳ございません……すべて使い切りました」
「そう、なら仕方ないわね」
黄金弓を受け取ったエメラルダは、いきなりそれを持つ手首を自分の持つナイフでグサリと切り裂いたのだ。
飛び散る血しぶきがカルロスの白髪に赤き斑点をとばす。
手首を伝って大量に流れだすエメラルダの血液。
そんな血液が重力に従い黄金弓へと流れ落ちていく。
「開血解放」
そして、エメラルダは静かに唱えるのだ。
瞬間! 手に持つ黄金弓が力強く輝いた!
その輝きの中から無数の小さなきらめきが噴き出されていくと、その光の粒は大きな川の流れのように一つにまとまりエメラルダの体を渦のように取り囲んだ。
そして、フラッシュのような強光を放ったかと思うとパンっと四方へとはじけ飛ぶ。
あとに残るは魔装装甲をまといしエメラルダの姿。
だが、その姿は白き女神のように輝き神々しい。
そう、カルロスたちが身にまとっている禍々しい黒き魔装装甲とは何もかもが異なっていた。
黒き魔装装甲はその暗部を隠すかのように顔を仮面で覆う。
これに対して白き魔装装甲は、頭をティアラのようなものだけで守るだけで、そのほとんどをさらけ出していたのである。
そのせいか、さきほどよりもエメラルダの美しさが一層引き立っているようにも思えるのは気のせいではないだろう。
この軽鎧のような白き魔装装甲は黒き魔装装甲の第五世代対して2.5世代と呼ばれていた。
2.5世代とは、権蔵が得意とする第一世代の融合加工の延長線上にある技術で単に武具のみの融合加工である。
すなわち、人体を直接融合加工する第五世代とは異なり人魔症の発生リスクが皆無なのである。
だが、当然、第五世代に比べると性能は格段に落ちる。
その差を埋めるために第二世代時の特徴である大量の血液投入によって一気に開血解放するのだ。
まぁ、第四世代以降、すなわち魔血の使用法が発見されて以来、この開血解放は魔血タンクで行うのが主流であるのだが、不死であるエメラルダは自分の血液で出来てしまうのである。
だが、不老不死といってもタダではない。
そう、その代償は自らが抱える神民たちの命。
その命を少しずつ削って自分の命を支えるのである。
そして、今まさに、エメラルダの神民たちの命が僅かに削られたのだ。
だが、おそらく、それをエメラルダの神民たちの総数で割ると一人当たり1分の寿命といったところか。
だが、白の魔装騎兵となったエメラルダは今だ黄金弓へと血を流し込んでいた。
そして、再び小さくつぶやく。
「黄金弓、開血解放」
その刹那! 力強く輝く黄金弓がドクンドクンと脈打ったのだ!
――わが主の命により、我! 汝に従わん!
まるで生き物のように鼓動が響く黄金弓から、生命のみが放つことができる闘気が発せられる。
今や、弓肌からは金色の炎が揺らめき立ち上り、エメラルダの持つ威圧感と相まって強烈なプレッシャーを放っていた。
その様子を確認したカルロスがサッと手をあげた。
カルロスの側に控えていた一般兵が突如立ち上がる。
そして、草原中に響くような重低音の角笛をふいたのだ。
それは撤退の合図。
駐屯地の外にいるものは急ぎ城壁の内側へ戻れという指示なのである。
不老不死だけあって手首の傷は既にふさがり始めていた。
だが、エメラルダは手首にもう一度ナイフ当てる。
そして、再びその白き刃を引き抜くのだ。
途端、勢いよく流れだす赤き血潮。
ちなみに……騎士と言っても痛覚はちゃんとある。
ナイフで切ればそれ相応に痛いのだ。
だが、エメラルダは顔色一つ変えずに、切り裂いた傷口を腰についた魔血ユニットへとかざすのだ。
そんな手首から流れ出す鮮血が魔血ユニットの中へと垂れ落ちていくと、なじみのある甲高い起動音が響きだす。
そして、三度、小さくつぶやくのだ。
「限界突破」
その瞬間、エメラルダの身に着けていた白き魔装装甲から激しい炎のように闘気、いや、そんなものよりもはるかに圧倒的な威圧感を発する覇気が立ち上る。
ここまでの覇気……おそらく、融合国の8人の騎士の中でもトップクラスであることは間違いない。
というのも、全体攻撃であれば第六のエメラルダ、個別攻撃であれば第七の一之祐と噂されるぐらいなのだ。
そう、エメラルダは美しい容貌とは裏腹に凄まじい攻撃能力を有していたのである。
金色の激しい炎に包まれたエメラルダが城壁の縁に足をかけ、魔物たちのひしめく草原のはるか上空に向けて黄金弓を引き絞った。
だが、弦を引くエメラルダの右腕がかすかに震えている。
そう、たとえ限界突破をしていたとしても、少しでも油断をすれば黄金弓の力に押し負けてしまうのである。
それを気力と胆力で無理やり従わせているのだ。
それほどまでの黄金弓の力。
そして、その力を今!開放される!
「行きます! 星河一天!」
エメラルダが大きく叫んだ瞬間、黄金弓から一本の光の矢が放たれた!
暗くなった草原の空に一筋の光の線が描かれていく。
天高く昇った光の矢は、まさに頂点に達したと思われた瞬間!
パン!っと美しい花火のように無数に輝く光を夜空一面に撒き散らしたのだ。
ようやく日が沈み、まだ星の瞬きも始まらぬ黒き天幕を無数に散らばった光が星々がきらめきに代わるがごとく覆い尽くしていた。
そして、その光の粒は花火の菊星のように光の尾を引きながら地上に向かって降り注ぎ始めたのだ。
城壁の上からは、それを眺める守備兵たちの感嘆の声が漏れる。
そう、ここから見るその光景はまさに美しい。
美しいのだが……
魔物たちがひしめく草原では、阿鼻叫喚の叫び声が響いていた。
土砂降りの雨のように降り注ぐ光の矢!
その矢を避けようと魔物たちは逃げ惑う。
互いの体に乗り上げて、激しくぶつかり合っていた。
そんな魔物たちの体を容赦なく光の矢が貫いていくのだ。
ぎゃぁぁぁぁぁぁっぁ!
その光景はまさに逃げ場ない地獄。
天から降り注ぐ光の矢は地上にあるモノをすべて貫いていく。
その間隙は人一人分もありはしない。
だからこそカルロスは角笛で魔装騎兵たちを駐屯地の内側へと下がらせたのだ。
いかに魔装騎兵と言えども、この光の雨を浴びれば、おそらく数分と持ちこたえることはできはしないだろう。
あれほど黒く暗かった草原が、いまや金色の麦畑へと塗り替えられていく。
そして、その光は、いまやフィールドの境界にまで伸びていた。
フィールドの境界、それは魔人世界のフィールドと聖人世界のフィールドのぶつかりあうところ。
そんな魔人世界のフィールドの内側でガメルは苦虫を潰そうような表情を浮かべ、迫りくる光の波を睨みつけていた。
その刹那、
ド!ド!ド!ド!と、まるで土砂降りの雨が突然降りだしたかのような激しい音に包まれる。
「フン!」
だが、ガメルはその様子に慌てることもなく鼻で笑うと、己が体の前に手をかざすのだ。
カキン! カキン! カキン!
降り注ぐ光の矢がガメルの周りで次々とはじかれていく。
そう、その瞬間、ガメルの体が公金色の光球に包まれたのである。
これは騎士の盾! 絶対防御の騎士特有のスキルの発動である。
そんな騎士の盾が先ほどから光の矢を完全に弾いているのだが、その効果はガメルの周囲にいる側近たちにまでは及ばない。
そのため、ガメルの周りでは慌てふためく魔人たちが、叫び声をあげて光の矢に貫かれていたのである。
「いてぇぇぇぇえぇ!」
だが、駐屯地からここまではかなりの距離がある。
そのせいか、降り注ぐ矢の数は思ったより少ない上に勢いもまるでない。
草原にいた魔物たちがハリネズミのような姿になって即死したのに対して、ここにいる魔人たちはケツの穴に光の矢を一本突き立てる程度なのだ。
それでも、ココまで攻撃が伸びてくると予想していなかった魔人たちにとっては、一大事なのである。
ガメルは遠くに見える駐屯地をにらみつけ歯ぎしりをする。
「ちっ! エメラルダの黄金弓か……いまいましい……」
そして、そのいら立ちを周りの魔人たちにぶつけるかのように怒鳴り声をあげた
「オイ!ルパンが盗んだというオイルバーンは見つかったのか?」
そばで尻を押さえる魔人がピョンピョンとはねながら即座に報告する。
「ガメル様! いまだ見つかったという報告は届いておりません!」
他の魔人たちもすぐさま膝を折り報告を続けた。
「フジコの話では、第六のフィールド内に運び込まれたらしいとのことだったのですが……他の偽装駐屯地内にはオイルバーンらしきものは全く見当たらないとのこと……」
――ならば……オイルバーンがあるとすれば、あのエメラルダのいる駐屯地の中ということか……
それを聞くガメルの歯ぎしりの音がギリギリと大きくなっていく。
これはかなり機嫌が悪い……周りの魔人たちは要らぬことを言うまいと、一歩後ろに下がるのだ。
だが、その中でも落ち着き払った頭の賢そうな魔人が忠言するのである。
「ガメルさま……もしかしたら、そのオイルバーンとやらはこの門外フィールドではなく、まだ聖人世界の門内にあるのかもしれませんぞ……」
だが、ガメルは大きく「ふうー」と深呼吸をすると
――それは……あの駐屯地を攻めれば全てわかることよ……
そして、空に浮かぶ月を見上げるのだ。
――友よ……そこから見えるこの景色はどうだ! さぞ滑稽なことだろうな!
エメラルダの「星河一天」によって、あれだ草原にひしめいていた魔物たちはほぼ全滅。いまやフィールド境界近くに位置していたガメル本隊を残すのみとなっていた。
確かにこの状況だけを見ればガメルの敗北はハッキリとしている。
だが、ガメルの表情は、そんな負け惜しみをにじませるようなものではない。
どちらかというと、それはさも自分の失敗を友に笑えと言わんばかりの様子なのだ。
そんなガメルは何か胸に抱いた思いに一区切りをつけると、サッと身をひるがえし駐屯地に背を向ける。
そして、全部隊に撤退の合図を出したのである。
「まぁ、よい……今回はここまでだ!」
――俺はいかなる犠牲を払おうと必ずオイルバーンを手に入れる! そして、月に行ってアイツを……アイツを必ずミーキアンのもとへと連れ戻す!
それはまるで今回の敗北はそのために必要なものだったといわんばかりに悔しがる素振りすら見せない。
それどころか、己が信念をさらにしっかりと心に刻むかのように強く強く一歩を踏み出し、さっそうと魔の融合国側にある第六の騎士の門へと歩き始めたのだ。
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