第53話 激闘!第六駐屯地!(24)黒い獅子

 今や気を失い呆然と立ち尽くしているヨーク。 

 だが、そんな彼は気を失いつつも、左手で抱いたカリアの体。をしっかりと抱き続けいていた。

 それはまるで、死んでも己が体でカリアを守り抜いて見せるという信念のようにも見える。

 だが!

 その信念もダイコンが折れるとともに砕け散った!

 ココに! ヨーク死す! ダイコンとともに!

 ついに力を失ったヨークの左手からカリアの体が落ちていったのである。


 まさかヨークも、カリアにダイコンを潰されるとは思っていなかったことだろう。

 そんな可哀そうなダイコン……

 その様子は、 カリアの手によって潰されてはいるというよりかは、どちらかというとカリアの手からしおれて垂れているという感じなのだ。

 うーん、今一様子がわからないか……

 しかたない、もうちょっと分かりやすく表現すると、「実るほど首を垂れる稲穂かな」……って状態www

 余計、分かんね゛ぇwww


 しかし、地に落ちたはずのカリアはその大根をつかんだ手だけは放さなかったのである。

 それはゴミ捨て場で育ったカリアの食に対するあくなき思いといったところなのかもしれない。

 だが、ここでヨークが目を覚ましてしまえば、大根が片付けられてしまう……

「上よぉ~♪ 寝付けよぉ~♪」

 カリアは大根を握った手を支えにするかのように体を起こすと……

「石に足を沈め~♪ 腰を折るぅ~♪」

 おもむろに石畳に膝をつき腰を折ったのだ。

「空き腹で願う~♪ 黄金こがね腹」

 そして、まるで田植歌でも歌うかのように、大根を前にきちんと正座して必死に農作業をし始めたのである。

 モミモミ……

「おいでなされ田の神様よぉ~♪」

 モミモミ……

 こんなことで、田の神様が喜ぶと思うのだろうか?

 だがしかし! 垂れていた稲穂が、元のしっかりと立っていた稲穂に戻っていくではないか。

 それは、まるでその歌が田の神様に通じたかのように、次第に時が戻っていくのである。

 あれだけ、しおれていたはずの大根が、いまやみずみずしい力を取り戻しそそり立っていた。

「稔りゃぁ~♪ たんとお返し申す♪」

 ダイコンに添えられた両の手が、そんな稲穂をさらに脱穀するかのように高速モミモミ……

 モミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミ♪

 だが、もみ殻は落ちてこない……そう……こう見えても、ヨークはタカトと違ってちゃんと風呂に入っている。垢などそうそう溜まっていなかったのだ。

 そのため、しごかれるたびに頭をゆする稲穂は、脱穀されることもなくモミすりをされ続け……ついには、モミの中で精米までされていたのである。

 おそらく精米の途中でできたものなのだろうか、米ぬかのような黄色いネバーっとしたものが稲穂の先端からたれ落ち始めている。

「まばゆい米と酒ぇ~♪」

 しかし、この精米の作業というのはかり根気がいる作業なのだ。

 とにかく時間がかかる。

 だが、このまましごき続ければ、きっと……きっと……稲穂の中からは真っ白になった米粒がドビュッシーもびっくりするほどにいっぱい飛び出してくることだろうwww

 ピクつく稲穂。

 もう少し……

 あと少し……

 そして! 今!

 ――いただきまぁ~す!

 と、飛び出してくる米粒に食らいつこうと、稲穂の先に伸ばしたカリアの頭を誰かがギュッと押さえつけたのである。

 ――うん? 誰や! 田の神様とアタイの神聖なる儀式の邪魔をする奴は!?

 少々ふてくされたカリアは力任せにふりむいた。

 

 そこには緑の目に満面の笑みを浮かべ、頬から淫らに白米の粒をたらすゲル×ググ立っていた。

「あなた♡ 独り占めはダメですよぉ~♡」


「なんや!お前! アタイが育てたダイコンに用でもあるんかい!」

 いきなりカリアは立ち上がるとゲル×ググに詰め寄ったのだ。

「ひぃぃぃ♡ ごめんなさい♡ ごめんなさい♡」

 その勢いに頭を抱えておびえるゲル×ググ。

 まぁ、仕方ない……瀕死の状態とはいえカリアは怪力なのだ。

 そんなカリアに殴られれでもすれば、美少女化に極振りした今のゲル×ググにはなすすべもない。

 そんな様子を見たカリアは鼻で笑う。

「ふん! 分かればいいんや! アタイは、もう一度、田の神様と神聖なる儀式をせないかんから、今度は邪魔するなよ!」

 だが、そんな言葉にゲル×ググが疑問を呈した。

「でもぉ~♡ そのダイコンは私が育てたものですよぉ~♡」

 ぎく!

 とっさにカリアの体が硬直した。

「それを横から猫ババするのはどうなんでしょうねぇ~♡」

 確かに、このゲル×ググが言っている言葉は正しい。

 カリアがダイコンを見つけたときには既に大きく育っていたのである。

 そんな丹精込めて育て上げた農作物を、横から奪い取るなんて野党や泥棒と一緒である……

 ――アタイは……緑女だけど……人……泥棒猫なんかじゃない……

 だが、ダイコンは欲しい!

 ならばどうする……

 どうすればいい……

 考えに考えたカリアは一つの結論に行きついた。

 ちなみにこの時間、0.1秒!


 そんなカリアはおもむろに拳を石畳にたたきつけた!

 ばきっ!

 激しい音ともに砕ける石畳。

 それとともに、カリアの拳も砕けていた。

 激しく飛び散る赤い流血……


 ひぃぃぃっぃいぃ♡

 その様子を見たゲル×ググの可愛い顔はムンクの叫びのように引きつっていた。

 ――ちょっと、調子にって言っただけなんですぅ~♡

 だが、謝ろうにも、恐怖で引きつった唇は動かない。


 だが、そんなゲル×ググに気を止めることもなく、カリアは流れ落ちる血で

 石畳に上に血文字を書きはじめたのであった。

 アそれ! 

 スイスイ♪スーダララッタ♪

 スラスら~スイスイスイ♪


 何を書いたのか気になったゲル×ググは石畳の上を覗き込んだ。

 そこには一つの文章が。

『本日、あなたが育てたダイコンをいただきに上がります!

                    CAT'S♥EYE』

 ――予告状じゃないですか♡


 そう、これはまぎれもなく予告状!

 怪盗からの予告状である。

 怪盗ルパンしかり、

 怪盗ジョーカーしかり、

 怪盗ジャンヌしかり、

 怪盗キャッツアイしかりである。

 予告状を出して盗めば、それは万事許されるのだ!

 って、かつてゴミ捨て場に捨ててあった漫画から学習したカリアさん。

「これ、この世界の常識なのよね!」

 ――って、違うと思いますぅ~♡

 と、ゲル×ググは激しく突っ込みたかったwww


「では、アンタをぶちのめして、さっそく奪わせてもらおうか……」

 スッと立ち上がったカリアは握りしめた拳の指をボキボキと鳴らしゲル×ググに近づき始めた。

 というか、ぶちのめすって……

 ――って、あなた♡……それじゃ、怪盗ではなくて、強盗ですぅ~♡

 だが、今の戦う気満々のカリアにそれを言っても通じないだろうwww

 

 ――ひぃぃぃっぃいぃ♡

 ますます近づくカリアに、恐怖するゲル×ググ。

 おそらく……いや、絶対に、あの怪力の前では、この手に持つナギナタも利きはしない……

 ならばどうする……

 ――どうすればいいの♡ ワタシ……♡

 ということで、ゲル×ググは両手を上げたwww

「降参♡」

 そう、手に持っていたナギナタをポイッと捨てて、おびえる顔を必死に笑顔に変えて白旗を上げたのであった。

 

「なに⁉」

 だが、それを見たカリアも驚いた。

「ならば……ダイコンはアタイのモノでいいんだな……?」

 しかし、奴はまがいなりにも神民魔人である。

 こんなに簡単に降参するわけはない!

 ――もしかして、何か企んでいるのか?

 というか、降参した相手からダイコンを取り上げたのでは強盗ではないか!

 ――アタイは、正当な手続きで旦那様のお嫁さんになるんだ!


 なぜか今度はゲル×ググが人差し指を口に当てて考え込みだした。

 というのも、このカリアの様子では殴られることはないようなのだ。

 ならば、別の方法を考えれば、この女からダイコンを取り返すことができるかもしれない。

 ピコん!

 ゲル×ググの頭の上に、まるで一本のアンテナのように髪の毛が逆立った。

 どうやら、あの意地悪そうな笑み……何やら思いついたようであるwww


「ではどうでしょう♡」

 カリアに対して提案するゲル×ググは、これみようがしに大きく空を指さし叫ぶのだ!


「あっち向いてホイ♡で対決というのは~♡」

 はぁ?

 あっち向いてホイ?

 あっち向いてホイって、あのあっち向いてホイ?

 もしかして、あっち向いてホイで、この勝負の行方を決めようというのですか?

 馬鹿じゃないですかwww

 ――だって、仕方ないじゃないですか~♡

 顔を真っ赤にして自己の正当性をアピールするゲル×ググ

 ――だって、力じゃ勝てないですし~♡

 ――でも、大根を収穫しないとガメル様に怒られちゃいますし~♡

 ――でもでも、これなら、今の私でも勝てるかもしれないんですよぉ~♡


 だが、この勝負にカリアが乗るだろうか?

 一発、目の前の可愛いだけのおバカさんをブチ殴れば終わるのだ。

 ならば、あっち向いてホイなどといったまどろっこしい事などしなくても済むのである。

 当然、そんなカリアの回答は

「いいぜ!」

 と、即O.Kだった……

 って、O.Kでいいのかよ!


 ――だって、仕方ないだろう……アタイ……あっち向いてホイなんてやったことないんだから……

 顔を赤らめて嬉しそうにうつむくカリア。

 ――やってみたい……あっち向いてホイ……

 そう、今まで緑髪のカリアなどとあっち向いてホイをやってくれる人間など、当然いなかった。

 でも、この駐屯地には多くの緑女が集まている。

 ならば、互いに寂しい緑女同士であっち向いてホイができるのでは?

 だが、緑女たちの壮絶な過去を思い出してほしい。

 人間を信じることができない緑女たちである。

 そんな彼女たちが思うのは、少しでも隙を見せれば、目の前の緑女に代わって自分が生贄にされかねないという恐怖なのだ。

 だからこそ、そんな彼女らは互いに距離を取り、常に一人孤独に自分を守り続けていたのである。

 そんな彼女らにあっち向いてホイ?

「ふざけんな! できるわけないだろうが!」


 だが、カリアは少々違った。……

 その昔、タカトとビン子のやさしさに触れた……

 そして、今またヨークの温かさに触れたのだ……

 まるで孤独という氷がゆっくりと溶けだし始めたかのようなカリアの心に、漫画の世界で見た「あっち向いてホイ」が現実のものとして現れたのである。

 おそらく、今のカリアはその魅惑的な「あっち向いてホイ」という言葉の虜になっていることだろう。

 これこそまさに誘惑チャーム

 だが、ゲル×ググはペンハーンのように神の恩恵を授かっているわけではない。

 ただの天然だ……

 天然だけど、そこがいい! ゲル×ググちゃん、超可愛い!

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