第51話 未来鑑定! オープン!

 そして、今! 話は大空洞へと戻る。


 挿絵:https://kakuyomu.jp/users/penpenkusanosuke/news/822139838929676430


 宙に浮かぶ鑑定の神ミズイ。

 胸の前で結んだ印から闘気の激流が渦を巻き、彼女の全身を包み込む。

 そして――閉じられていた瞳が、今、パッと見開かれた。


「対象認識!」


 挿絵:https://kakuyomu.jp/users/penpenkusanosuke/news/822139838929790714


 その言葉と同時に、ミズイは光球の中心で大きく右手を振る。

 球を満たしていた光がズズズッと右手に吸い込まれるかのように跡形もなく消えた。


 ――な、何が……?

 タカトは目を一文字に結び、視界を凝らす。

 目の前が突然、漆黒に覆われたのだ。

 どうやら、先ほどまでタカトを守っていた金色の光が消えたせいのようである。


 しかし、やがて暗闇に慣れてくると、洞窟を照らすヒカリゴケの柔らかな光がじわりと戻ってきた。

 ……と、その時、足元に何かがコソリと触れた。

 思わず視線を落とすタカト。


 すると――何ということでしょう!


 そこにはクロダイショウ!

 緑の瞳でタカトを見上げつつ、舌をチロチロと出しているではあ~りませんか!


 まぁ、仕方ない……。

 先ほどまでタカトを守っていた金色の神の盾は、もう完全に消えていたのだから……。

 当然、魔物だって近づける。


 今のタカトを守るものは何もない!

 そう! むき出し! 丸裸のタカト君!

 言い換えれば――魔物にとっては襲い放題! 犯し放題なのである!

「イヤァァァァァァッ!」


 あれほど「任せろ」と言った鑑定の神ミズイ。

 それがどうだ……任せてみれば、このザマである。


「全然ダメじゃーん!」


 事実に愕然としたタカトは、もう笑うしかなかった。

 ――ビン子、お前が戻ってきたときには、俺はこの世にはいないかもしれない……


 だが、その時! タカトはふと、妙な違和感に気がついた。

 どうも、それはクロダイショウから漂ってくる。


 クロダイショウをジーーッと凝視するタカトの目玉!

 まるで間違い探しでもするかのように、記憶のクロダイショウと見比べていた。


 「……あっ⁉」

 舌をチロチロさせるその頭の上に――何かが乗っているではないか!


 しかし……

 ――なんだこれ……?

 タカトは思わず息を呑む。


 クロダイショウの頭の上には、四角いモノ。

 一見すると……そう、トランプのカードのように薄っぺらい何かが、ピタリと貼りついていたのだ。


 「おいおい、こんなのアリかよ……」

 タカトはそろそろと手を伸ばし、確かめようとする――。


 その瞬間! 

「触るなッ!」

 ミズイの鋭い声が、タカトの手を真横からぶった切った!


「ひっ!」

 飛び上がるように手を引っ込めるタカト。


 おそるおそる声の主を見上げれば――そこには、険しい表情でにらみつけるミズイ。

 だが……ただの険しさではない。

 その双眸が……じわり、じわりと……赤く染まり始めているではないか!


 ドシン!

 ミズイの気迫に押され、タカトは情けなく尻もちをついた。


 そんな彼の顔めがけ、クロダイショウの頭がヌルリと迫ってくる。

 まるで恋い焦がれる乙女の接吻(キス)みたいに……。


 ……まぁ、それが美少女ならタカトも本望だったろう。

 だが、現実は黒々とした蛇! しかも魔物である。


 けれど、至近距離だからこそよく見えた。

 その頭に乗る何かもハッキリと。


 「……タロットカード!?」


 そう、クロダイショウの頭の上には、いつの間にかタロットカードが伏せられていたのだ。


 タカトは慌てて周囲を見渡す。

 だが、それは一匹だけではなかった。


 広場にひしめくクロダイショウ、そしてオオヒャクテ!

 その全ての頭の上に、例外なくカードがペタリと貼りついている!


 その数――ゆうに万を超える!

 ズラリと頭上に並ぶタロットカードの群れ。まさに圧巻の光景だった。


 ――……これ全部、ミズイの仕業……なのか?

 タカトはハッと青ざめ、自分の頭に手を伸ばす。


 ――まさか……!

 もしや、自分の頭にも……!?


 慌てふためき、何度も何度も頭をさするタカト。

 だが、空を切る手のひら。


 ……ない。

 カードは、乗っていないようだった。


 意味は分からない。なぜタロットカードなのか――。

 だが、一瞬のうちにこの数をばらまいたという事実だけでも、考えれば考えるほど恐ろしい。


 ――ミズイ……マジでヤバい。すごすぎる!

 タカトは感嘆のまなざしでミズイを見上げる。

 って、単純すぎやろwwwタカト君。


 だが、その視線の先のミズイに、余裕の表情は微塵もなかった。

 赤く染まる瞳には、額から流れ落ちた脂汗が光る。

 歯を食いしばる頬はわずかに震え、肩で荒く息をするその姿は、まるで激痛に耐えているかのようだった。

 そして、胸の前にまっすぐ伸ばした指先――


 パチ――ン!

 小気味よい音とともに、ミズイが低く、凛と告げる。


「未来鑑定! オープン!」

 

 その声を合図に、目の前のクロダイショウの頭上のタロットカードが、ゆっくりと、しかし確実にひっくり返った。

 ――正位置の『死神』。


 洞窟内のクロダイショウたちの頭上のカードも、次々と表を向く。

 死神。死神。死神。

 すべて、逃れられぬ死神だ。


 瞬間――。

 カードから冷気のような黒い影が飛び出す。無数の死神が鎌を携え、クロダイショウたちの首へと降りかかる。


「生まれ変わるがよい……」

 ミズイの低い声と同時に、死神の鎌が一斉に振り下ろされる。


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 悲鳴が裂ける。次々に首をはねられる魔物たち。

 大空洞を埋め尽くすのは、絶望の声と飛び散る濃厚な魔血。

 緑色の壁が、瞬く間に赤紫色へと変貌する――冷たく、残酷な死の色に染まりながら。


 一筋の魔血が壁をつたって、タラリとタカトの足元まで落ちてくる。


「ひっ!」

 慌てて足を上げるタカト。

 だが、目に映るのは――動くもののない床。

 先ほどまで騒ぎ立てていた無数の魔物たちは、今や一匹残らず倒れ、呻き声も、這いずる音も、全てが消え去っていた。


 ――静寂。

 その余韻だけが、大空洞に冷たく、重く漂う。


 そう――ミズイのタロットカードによって、この大空洞の全ての魔物の首は、完全に掻っ切られていたのだ。

 タカトは驚きと恐怖で、思わず背筋をぞくりと震わせた。

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