2-2.プロットの構成
1.プロットとは
小説は「登場人物(キャラクター)」「舞台(セッティング)」「視点(ビュー)」「話の流れ(ストーリー)」「因果関係(プロット)」という、5つの要素によって構成されている。この5つの要素はすべて密接に関連しており、作品を設計する上では、全ての要素を同時進行で組み立てていくことが多い。
この中で区別が付きにくいのはストーリーとプロットだろう。ストーリーは出来事を時系列順(もしくは作品中で語られる順)に並べたもので、プロットは出来事と出来事との結びつきを表している。
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●ストーリー(話の流れ)
1.高校生のAは夏にクラブの合宿で海に行く。
2.海辺の学校に通うBと知り合いになる。Bと話すうち、彼も地元の学校で同じクラブに所属していることを知る。お互い2年後に全国大会の舞台で戦おうと誓う。
3.夜、クラブの仲間と浜辺で花火大会をする。ガラス瓶にロケット花火を入れて点火したりして悪ふざけして怒られる。
4.2年後、Aは再び合宿で海辺に戻ってくる。Bのクラブと一緒に練習することになる。
5.再会したBが手強くなっているのを知り、Aは朝早くに一人で特訓をすることにする。そのとき、砂浜に捨ててあったガラス瓶に躓いて転び、足を挫いてしまう。
●プロット(因果関係)
Aが1年の夏にガラス瓶をポイ捨てして、それを3年の全国大会出場直前の練習中に踏んでケガをする。(註)
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さて、小説業界(?)においては、上記で言う「プロット」とは別に「作品全体の設計図」という意味で「プロット」という言葉を用いることが多い。要するに上記の5要素を総合したもので、誰がどこでどういう筋書きで話が展開し、どういう結末を迎えるのかという作品の未来像を明確に示したもの、ということになる。以下では混乱を避けるため、「プロット」という言葉は「小説の設計図」という意味のみで用いる。
プロットは必ずしも必要ではないし、きれいに作る必要もない。たいがいはノートに書き綴った構想メモの固まりのようなものが、その人にとっての「プロット」ということになるだろう。
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■テーマ
擬人法の批判。擬人法は人間の思考を他の動物や無生物に押しつけるが、そこに葛藤があるわけでない。人間の考えを他のものに押しつける残酷さを表現する。
主人公の性別を不明なままにする。できれば読者が自然と自分をあてはめて読んでしまうような形にしたい。→主人公の設定を空洞化
■おおまかな流れ
人形を擬人化しようとして失敗し、人形を破壊してしまう話。
■具体的な流れ
1.人形を人間に対してするように、ひたすら話しかける。
●人形の名前を聞いたり、出身地を聞く。
●私の学校の友達の話などをする。
2.話すネタが尽きて黙り込む。なぜ人形は答えてくれないのかを考える。
●嫌われているのか? → その割には笑顔でいる
●しゃべれないのだろうか?
3.あまりにも無反応なので、叩いてみたりする。エスカレートしてカッターナイフでめちゃくちゃにする。
4.母親が来て怒る。私と人形の関係と、私と母親の関係の類似から、私は人形のように微笑む。
●私が人形の気持ちを理解できないように、母親も私の気持ちを理解できない
■注意事項
絶対人形を擬人化しない。主人公の主観を通してのみ人間であるように描写するが、実際に人形が喋ったりということはしない。
主人公が本気で人形を人間だと思いこんでいるように見せつつも、どこかで「あれは人形なんだ」ということはわかっている感じにする。
この主人公の性別はどっちなの? と聞かれるような作品には絶対にしないこと。
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これは、私が実際に書いた作品(具体的には、カクヨムにも投稿している「ほほえみ」)の前段階として、ノートに書き込んだものを整形したもの。5000字程度の短いもので、かつ字数制限などの制約もないので、「設計図」と呼べるほど厳密に書かれていない。
そもそもこの書き込み自体、実際に本文を書きながらメモったものに過ぎず、最初は「人形を擬人化しようとして失敗し、破壊してしまう話」ということしか決まっていない内に書き始めている。
プロットを作ってから小説を書くという手順は理に適っているように見えるので、多くの指南書では推奨しているが、2-1で紹介したように、西洋では構想や起草の段階ではプロットや設定をきっちりと決めず、とにかく思いつくままに書いて、その中から使えるものを選んでいく、というやり方を想定している。そして、私の経験上、その方が実態に合っていると思う。
(註)
2年前に捨てたガラス瓶を踏んで怪我するのは不自然、といった書き込みを某所で見つけたので補足。実際に伏線を張ったりする際の参考になる話題だとも思うので。
捨てたガラス瓶と2年後に踏んだガラス瓶は、必ずしも同じ物である必要はない。単にガラス瓶を捨てるシーンと、後にガラス瓶を踏むシーンを書けば、読者の方で勝手にそこに因果を感じるものだからである(実際、本項のストーリーには「あのとき捨てたガラス瓶を踏む」などとは書いていない。プロットの項ではわかりやすくするため「それを~踏んで」とは書いているが)。
同じ物とする方がドラマチックだが、偶然すぎる分リアリティには欠けるため、本項に突っ込んだ人がいたように「おかしい」と言い出す読者は必ず出てくる。それでもあえて同じ物にするかどうかは作者の考え方次第である(リアリティを追求しすぎるとそれはそれでつまらない)。捨てたものと同じ銘柄のガラス瓶を踏むとか、その程度にしておくという手もある。
余談だが、私は「ここに因果関係がありますよ」といった目印を書かない作品の方が好みである。読者が気付かないならそれでいいや、くらいの突き放した感じでやってくれている方がいい。なので、捨てたガラス瓶と同じ銘柄だとか、そういった描写は必要ないと思っている(映像作品でロゴマークをさりげなくチラ見せする程度の演出ならアリだと思うが、小説でそれをわざとらしくなくやるのは難しい)。
ただ、そうするとせっかく張った伏線が本当にスルーされてしまう可能性もあるので、想定する読者や状況に応じて、うまいさじ加減を見つけるといいだろう。最終的には好みの問題で、正解はない。
2.5要素の関連から発展させる
プロット作成例を紹介する前に、もう少し実用的で補助的なことを紹介する。プロットの作り方そのものではなく、プロットを発展させるためのひとつの方針である。
プロットを組んでいて行き詰まった際には、小説の5要素を書き出してやると、不足している要素がわかりやすい。
たとえば、美少女幽霊が登場する学園ドタバタラブコメディを書きたいとしよう。このままでは単なる妄想の域を出ないが、それでもとりあえず各要素別に書き出してやると、少し具体的な方針が見えてくる。
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●登場人物
美少女幽霊
●舞台
学園(話の流れから必然的に決まる)
●視点
(未設定)
●話の流れ
学園生活ドタバタラブコメディ
●因果関係
(未設定)
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埋めていくと、視点、因果関係が抜けているのが分かる。視点
は映像作品のカメラワークに相当する。詳しくは3-1.人称(視点)についてにて。
因果関係は、この時点では小説全体のオチを考えることになる。(Aだと思っていたら)実はBだった、といった形式になる。後で変えても構わないので、まずはざっと埋めてみよう。
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●登場人物
美少女幽霊
●舞台
学園
●視点
高校生の男子生徒からの一人称視点
●話の流れ
学園生活ドタバタラブコメディ
●因果関係
幽霊は実は男子生徒の生き別れの妹
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ある要素を決定すると、他の要素も必然的に決まってくる。また、何が不足しているかもわかりやすい。
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●登場人物
高校生の男子生徒(視点人物・幽霊の兄)←視点・因果関係からの要求
美少女幽霊(男子生徒の妹)←因果関係からの要求
●舞台
学園(高校)
●視点
高校生の男子生徒からの一人称視点
●話の流れ
学園生活ドタバタラブコメディ
1.男子生徒と妹が生き別れる。
2.男子生徒と美少女幽霊が出会う。
3.幽霊が男子生徒の生き別れの妹だと発覚する。
(因果関係を活かすためには、出会ってすぐ妹だと発覚するよりは、ある程度話を進めてから、何か劇的な展開から発覚した方が面白いだろう。そういうストーリーを組む必要がある)
●因果関係
幽霊は実は男子生徒の生き別れの妹
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こうやって、要素同士の関連から必然的に要求されるものを書き出していけば、自分の思いついたものがどの程度のもので、完成させるには何を考えなくてはいけないかが見えやすくなる。
6.他者の作品をプロット化する
以上、プロットを作成する流れの一例を紹介したが、小説のプロットを理解するには、最初から自分で作ろうとするよりも、すでに完成している誰かの作品をプロット化して分析した方がわかりやすい。作曲するときにコピーから入ったり、絵を描くときに模写から入るのと同じことである。
プロット化するときの手順は、プロットを書く手順と同様、人それぞれ好きなやり方で構わないが、登場人物、舞台、視点、話の流れ、因果関係の5要素が、どう関連して構成されているかを注目して分析すれば、テクニックを盗みやすくなるとは思う。
[補足]
注意深く賢明なる読者の中には、1、2の次にいきなり6が来るので「どうなっとるんじゃ!」と思った人もいるだろう。
私のサイトで公開している、オリジナルの「文字精錬レポート」では、3~5は存在する。そこでは、実際にプロットを作る工程を紹介している。
しかし、レイアウトにテーブルタグを使いまくっているせいでカクヨムには移植しにくいことと、さして重要ではない内容なので、カットすることにした。
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