第7話 部活始動、恋も始動?

 席の近い男子四人、何となく仲良くなった。笠原彰吾、金子陸、栗田直哉と俺。つまり名簿順で並んでいた四人だった。ダンス部や調理部に体験に行ったのもこの四人だった。結局、笠原はサッカー部に入った。もともとサッカーをやっていて、サッカー部に入るつもりだったのを、面白がって俺についてきただけだったのだ。金子は放送部に、栗田はテニス部に入った。

 朝、サッカー部の笠原は朝練を終えてから教室に入って来たが、開口一番俺にこう言った。

「岳斗、お前の兄ちゃん、やっぱかっこええなぁ。」

「は?何、今更。」

俺が言うと、

「いやあ、朝練の後に着替えてたらさあ、ああ今日小テストだったって言ってネクタイ中途半端で急いで行こうとしてさ、その時に俺らに向かって“お前ら、ちゃんと汗拭けよ”って言いながら飛び出して行った時の海斗さんがさ、まあかっこよかったっていうかさあ。」

笠原は、夢見心地の様相である。

「彰吾はすっかり岳斗の兄貴のファンだなあ。」

金子が笑いながら言う。

「海斗さんにはみんな憧れるでしょ。」

笠原が尚も言う。すると栗田が、

「岳斗、お前兄ちゃんの裏話とかないの?家では鼻ほじってますとか、いびきがうるさいぞ、とか、なんかその、海斗さまのマイナスになるような情報は。」

と聞いてきた。

「あー、そうだなあ。兄貴は家では・・・。」

俺は家での兄貴を思い浮かべた。だが、兄貴は家でもかっこいい。非の打ちどころがない気がした。

「まあ、家ではグダグダしてるけど・・・。」

玄関から俺に担がれて部屋へ行く、という話をしようかと思ったがやめた。なんとなく、人に知られたくない気がした。べつに恥ずかしい事でもなんでもないけれど、教えてあげたくない、もったいないような気が。

「やっぱり、家でもかっこいいよ。」

俺はため息交じりにそう言った。金子は俺の肩をポンポンし、無言で大きく二つ三つ頷いた。

「お前にとっては、気の毒な事だな。」

栗田が言った。


 さて、四月も終わりに近づき、俺はいよいよ山岳部に入ろうと決めた。母さんにそう伝えると、

「山岳部?」

母さんは一瞬動きを止めた。俺が顔に疑問符を浮かべていると、母さんは思い直して俺に微笑んだ。

「いいわね、山岳部。岳斗は足腰強いから、向いてるわよきっと。」

と言ってくれた。足腰が強いなど、自分では考えた事もなかった。もしそうなら、兄貴を担いでよく階段を上っているからだろうと思った。しかし、向いていると言われたのは嬉しくて、早速翌日入部した。

 山岳部の活動は月、水、金の週三回だった。部員は三年生二人、二年生三人の計五人。俺の他に一年生の女子が一人入るということで、これで部員は七人になった。三年生の一人は女子で、部員の女子が二人になると言って、三年生の女子、門倉先輩は喜んでいた。

 門倉梨花さん、部長だ。そして、もう一人の三年生は篠山雄大さん。このお二人はお付き合いしているそうだ。最初にそう紹介された。二年生は広瀬大地さん、近藤風雅さん、松本樹生さん。そして一年生の女子は唐木萌ちゃん。この萌ちゃんは、小さくてよく笑う、可愛い子だ。俺好みかも・・・って、いかん。どうせまた兄貴に持っていかれるのだ!期待してはダメだ!俺もだいぶひねくれたな・・・。

 部活動は、まず集合して今日の特訓予定を話し合い、それぞれリュックを背負って思い思いに歩き始める。とはいえ、最初はみな一緒にスタートだ。それぞれのペースがあって、俺たち一年生は少しずつ遅れて行く。夏休みまでに、先輩たちに追いつけなかったら、山登りには連れて行ってもらえないと言われたが、そんなことはないと信じている。だが、足手まといにならぬよう、頑張って日々特訓するのだ。

 一階まで降りて、渡り廊下を歩いていると、ボールを追いかけて来た兄貴に出くわした。

「おう、岳斗。頑張れよ!」

と言って、兄貴はすぐに校庭に戻って行った。俺は息が乱れて言葉も出なかった。だが、あの嬉しそうな笑顔には、なんだかちょっと力が湧く。他のみんなが兄貴を見て嬉しくなるのも分かるなあ、と実感。そして、俺のすぐ後ろを歩いていた萌ちゃんもまた、嬉しくなっただろうなあと複雑な気持ちになった。

 部活動を終えて、萌ちゃんと何となく一緒に駅まで歩く。気になっている事を、聞いてみるかどうしようか。

「あのさ、萌ちゃんもやっぱ、俺の兄貴の事、知ってるよね?」

遠慮がちにまずはここから聞いてみる。

「岳斗くんのお兄さん?ああ、さっき声をかけて来た、サッカー部の人だよね?」

「うん、そう。」

やっぱり知ってるよな。だが、どう思うかと聞こうとしてためらわれた。今聞いて、かっこいいよね、と返されたとしても、どこまで本気だと捉えればいいのか分からないではないか。

「岳斗くん、優しいお兄さんがいていいね。」

萌ちゃんは、意外な事を言った。かっこいいお兄さんではなく、優しいお兄さんと言ったから。それで、俺はすっかり萌ちゃんに心を奪われてしまった。萌ちゃんなら、兄貴に持っていかれずにつき合えるのではないか。俺の事を好きかどうかなど、すっ飛ばして舞い上がってしまった。

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