第2話 弁当を届けに

 一時間目が終わると、俺は恐る恐る二年生の教室がある階へ足を踏み入れた。上履きが学年カラーになっているので、周りの二年生からジロジロと見られる。怖い。だが、俺は一つの弁当を手に、兄貴のクラスを捜し歩いた。

 今朝、俺が自分の弁当を持って出かけようとすると、母さんが、

「岳斗、これ、海斗に渡して。お願い。」

と言って海斗の弁当を俺に渡し、手を合わせてお願いポーズをした。兄貴はいつも朝練があるので出かけるのが早い。母さんの弁当作りが間に合わず、やむなく俺に兄貴の分も預けたというわけだが。何となく、これからそういう回数が増えそうな気がしてならない。人間、楽な方に流れるものだ。母さんにとって、一時間以上も早く弁当を用意するよりも、二つ俺に渡した方が楽に決まっている。だが、毎回これは勘弁してほしい。早めに母さんに訴えておかなければ。

 やっと兄貴のクラスである、二年五組の教室を見つけた。中を覗く。なるほど、探すまでもない。席の場所とか関係なく、兄貴はクラスの真ん中にいた。みんなが何となく兄貴を見ている。話している相手も、その他の人たちも。そんなにも、兄貴は人を惹きつけるのか。そうか、こうやってみんなに見られているから余計に外では疲れるのかもしれない。だから家ではあんなにダラダラと・・・。

「あれ?岳斗、どうした?」

兄貴が俺に気が付いて、教室の入口までやってきた。ああ、恐れていた通り。みーんなが俺を見る。また厄介な事に巻き込まれる回数が増えそうだ。

「これ。」

見れば分かるだろ、とばかりに俺は弁当を差し出した。

「ああ、サンキュー。」

そう言って兄貴は弁当を受け取り、そして俺の頭を撫でた。

「いい子だな、お前は。」

頭を少し傾げて、優し気に笑う。ああ、ほら。教室のあちこちでキャーっという歓声?奇声?が。

「海斗!一コしか違わないのに、子供扱いするなよ!」

俺はつい、そう言ってぱっと兄貴の手を払いのけた。そして、くるっと踵を返して走り出した。一刻も早くここから逃げ出したい。穴があったら入りたい。

「やまとー!ごめーん!」

遠くで兄貴の声がした。最近、兄貴は家にいてもほとんど寝ていて、俺より早く出かけて行くし、考えてみたらあまり話をしていなかった。だからか?兄貴が俺の事をいつまでも子供だと思っているのは。そうだな、もっと家で話すようにしないといけないな。日曜日は兄貴も家にいるし、一緒に暮らしているんだから、少しくらい話す時間はあるだろうよ。

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