第15話【とある記憶】

 主人公、大沢文人おおさわふみとには小学生時代からの幼馴染みが二人いた。


 その二人の幼馴染みとはいつも近所の公園で遊ぶなど気心の知れた仲であった。


 あの時も、いつものように三人で居た。


 あの日も、三人で一緒に行くだった… 




 (あぁ…




 会ってどうしよう…




 なんて話し掛けよう…)




 鳥居の前に着いた文人は一度その場に立ち止まり、気持ちの整理をしていた。




 夏蓮に気持ちを突き動かされ、茜に謝りにきた文人だが、茜に関して思い出せない事がいくつか残っていた事もあった為に。




 (このかばんについてるアクセサリー…




 茜が別れる間際に捨てた物と関係あったのかな…




 それに…)




 [もし…あなたが、あの時のをしっかりと覚えていてくれたならこんなことにはならなかったかもね…]




 文人は茜が別れる直前に言っていた、この言葉も引っ掛かっていた。




 (約束についても言ってたよな…




 茜といつ、どこで、何を約束したんだろ…)




 そうやって文人は脳内の記憶を必死にさぐっていた。






 「大沢、遅いわね…」




 「さっき向かうって連絡あったんだろ?


 あいつの事だから道にでも迷ってんじゃない?


 それにこの神社も広いしさぁ…」




 と、結香と陸が茜に気付かれないよう再び小声で話し始める。




 「あっ…!」




 「どうした?


 急にそんな声出して…




 茜に気付かれると面倒だぞ…」




 「ごめん、ごめん。


 えっとね…。




 実は…




 大沢に神社に居るのは伝えてたんだけど…




 神社のどこに居るかって連絡してなかったなぁって~」




 「…はぁ?


 それじゃあいくら待っても来るわけないだろ…」




 「…アハハ。


 ごめん。


 つい、うっかりしてた…」




 「まぁ、知りたかったら連絡してくるか。


 連絡が来ないってことは来る気がないって事なのか。




 それか、またウジウジと考え込んでいるかのどっちかだろうなぁ…




 たぶん後者だとは思うけど」




 「一応、大沢には分からなかったら連絡してとは入れてあるけど…


 あれから連絡は来てないみたいね」




 と、スマホを取り出して確認をする結香。




 「さずがの文人も当てずっぽうに探すってことはないと思うが…


 一応連絡していた方が良いかもな」




 「だよね…大沢だしね」




 と、言いながら連絡を送る結香。




 「ちょっと!二人でコソコソと何言ってるの?


 ねぇ、もしかして陸の好きな人の話し?


 それなら私も混ぜてよ~」




 茜が二人の会話に気付き話し掛けてきた。




 「そんなんじゃないって。


 てか、それもう忘れろって」




 「えっ~


 そんな事言って~


 照れてる陸も可愛い!


 でさ、誰なの?


 中学の同級生?」




 「ちょっと…茜。


 もうその辺で…」




 止めようとしている結香のことを、気にも留めないで陸に問い詰め続ける茜。




 「高校に入っても一緒の学校?


 もしかして、一緒のクラスになったとか!?」




 再びしつこく聞いてくる茜に対して陸も限界を迎えていた。




 「あーもう。


 そんなの誰だって良いだろ!!


 お前には関係ないって!


 お前は文人の事を考えてたら良いんだから!」




 しばらくの間静まり返る境内。


 そんな境内には、春風になびく桜の木々の音だけが響き渡っていた。




 「…ごめん。陸。


 ちょっと私もしつこく聞き過ぎた。


 そりゃあ陸にも言いたくないことあるよね。


 文人にも…




 …でもね。




 私たち、子供の頃からずっと一緒に居たじゃん。


 それなのに関係ないってのは違うよ…




 文人もだけど最近何かおかしいよ…




 ねぇ、私たちは高校に入ったからって言っても何も変わらないよね?


 中学の時みたいに一緒に居れるよね…?」




 茜は少し涙ぐみながら、二人に向かって心に抱いていた不安をぶつける。




 「茜…」




 茜の抱えていた想いを始めて知った陸と結香だが、それぞれの心のどこかには、変化を求めようとする想いがあり、すぐには言葉を返すことが出来なかった。




 「ねぇ…どうして二人とも何にも言わないの…?




 二人は私たちの関係が今までと変わっても平気なの…?




 そう…思ってるのは…私だけなのかな…?」




 再び静まり返る境内。






 「…あー何かごめん…。


 ちょっと私…


 トイレに行ってくる…。


 結香…ちょっとかばん見ててくんない…?」




 「う…うん」




 〈スタスタスタ〉




 気まずくなった茜は、陸と、結香、二人の前から立ち去った。






 (はぁ…




 私、何やってるんだろ…




 さっきから空回りばっかり…




 文人にもみんなにも…




 なんでこんなに余裕ないのかなぁ…




 うん…?




 こんなところに池があったんだ…




 綺麗…)




 と、一人になった茜は神社内にある池の前に設置されてあったベンチに腰を掛けた。


 徐々に傾きつつあった日差しが、池の水に反射をし、きらびやかに光っている光景が、茜の目には輝いて映っていた。




 (昔はこんなこと無かったのになぁ…




 何も考えずに無邪気むじゃきにはしゃいでたのに…




 あの時みたいにもう過ごせないのかなぁ…




 みんなはそういうの望んでないのかなぁ…




 そう言えば…




 




 文人や陸と気まずくなったなぁ)




 茜はとある日の出来事を思い出すのであった。










 【数年前】




 とある、公園にて。


 遊具のそばでお馴染みの3人が話をしていた。




 「もうすぐお祭りだよね!今年は3人で行かない?


 ほら、今までは家族が付き添いだったけど、そろそろ私たちだけで行っても良い頃だと思って!」




 「そう言われれば…今まで3人で行ったことなかったかもな。


 俺は茜の提案に賛成」




 「さっすが陸。わかってくれる!


 文人はどう?」




 「えっ…俺は今年もばあちゃんと、母さんと行こうかな~


 茜は陸と二人で行ってきたら?」




 「えっ!?


 俺と茜…二人っきりで!?


 …んまぁ悪くない話だけど」




 「ダメダメ!


 私は三人で行きたいんだって!


 それに文人は、ま~た、ばあちゃん、ばあちゃんって言って~


 そんなにずっと一緒に居なくても良いじゃん」




 この頃の、ばあちゃんと文人は、まだ一緒に同居はしておらず、文人がよく学校の帰りに、ばあちゃんの家に通い詰めているという状態だった。


 それゆえ、文人が茜たちの誘いを断ることも多くなってきていた。




 「別にばあちゃんの事は関係ないって…




 ただ、毎年一緒に行くのが当たり前なだけだから…




 それより、俺たちだけで行くんでしょ?


 ちょっと早くない?


 祭りはかなりの人が来るんだし。




 もし、はぐれたりしたら合流出来るかどうか…」




 三人だけで行くのに対して不安を感じている文人。




 「そりゃぁ、確かに人はかなり多いけど…」




 「別に、もしはぐれたとしても携帯があるんだし大丈夫だろ」




 「そうだよね!陸の言う通り。携帯があるじゃん!


 これなら三人で行っても安心だって!」




 「まぁ、確かに携帯があれば、もしはぐれてもすぐに会えるか…」




 陸の発言に納得する文人。




 「そうだよ!


 これで問題は無くなったよね!


 よ~し!今年の祭りは絶対に3人で行くよ!約束だからね!」




 「あっ。


 …でも母さんが許してくれるかどうか…」




 と、新たな不安をよぎらせる文人。


 もともと、心配性な性格である文人の母親の洋子。


 さらに、母子家庭ということもあり、この頃は特に文人に対して過保護な部分が強かった。




 「あっ、それなら今度私から言っておくから文人は気にしなくていいよ!」




 「上手いこと…?なら良いんだけど…」




 自信満々な茜に対して半信半疑な様子の文人。




 「茜はやり手だから心配いらないって」




 「うん?陸、何か言った??」




 すかさず聞き返す茜。




 「べ、べつに」




 (二人で行きたかったなぁ…)




 心の中で少し残念がる陸であった。






 その日の夜…




 「文人~ご飯できたわよ」




 いつもの母親の洋子の呼び掛けにて、部屋から出て台所で夕食を食べ始める文人。


 この頃はまだ、ばあちゃんとの同居は行っていないので、文人と洋子の二人暮らしであった。




 「いただきます」




 「あっ、そうそう。


 さっき、茜ちゃんから連絡があったわよ」




 「えっ?茜から?」




 「今年は陸くんと三人で祭りに行くんだって言ってたけど…」




 「うん…ダメだよね…?」




 「別に行っても良いわよ」




 「えっ?」




 意外な洋子の回答に、箸で摘まんでいたおかずをズボンの上に落としてしまう文人。




 「ちょっと~行儀悪いわね。


 よそ見をしているから落とすのよ…




 ほら、早くこれで拭かないと」




 と、近くにあった布巾を文人に渡す。


 文人は、ズボンを拭きながら…




 「本当に行って良いの?


 今年もばあちゃんと行く予定だったんじゃ?」




 「今年は、ばあちゃんと二人で行くことにするわ。


 ばあちゃんも残念がるとは思うけど…




 文人が友達と行くって聞いたら喜ぶと思うし。


 まぁ、人が多いからはぐれないか心配だけど、はぐれても携帯があるしね。


 何より、茜ちゃんと、陸くんと一緒なら心配することはないし。


 それより、二人の前でみっともないところ見せないでよね~


 あと、ちゃんと忘れずに携帯を持っていくこと!


 これを忘れたら話にならないんだから」




 「わかったよ。ちゃんと持っていくから」




 (あの母さんをこんな簡単に…茜はどんな言い方をしたんだ…?


 まぁ、これで始めて三人で行けるんだ…)




 と、茜がどう説得したのか不思議に思いながらも、子供だけで始めて行くお祭りに、少し胸を踊らせている文人であった。




 そして、あっという間に祭りの日の当日がやってきた。




 「行ってきます~!」




 と、玄関で勢いよく叫ぶ文人。




 「こんな時間からどこに行くの?


 祭りに行くのはまだ早いと思うけど…」




 と、同じく玄関に出てきて、不思議そうに洋子は言った。




 「今から夜まで遊ぼうって話になってて!


 とりあえず公園で待ち合わせしてるから!」




 「本当に元気ね。


 あんまり無茶なことしないでよ…




 私は、今からばあちゃん家に行ってくるから…




 もしかしたら今日は、ばあちゃん家に泊まらないといけないかも知れないから、祭りが終わったら連絡してね」




 「…えっ?急にどうして…?」




 「さっき、電話があって…




 ばあちゃん、昨日の夜から高い熱が出てるみたいなの…




 それで、祭りは一緒に行けないって言われたんだけど…




 もう、歳だしね…




 そんな、ばあちゃんを一人にしておくわけにもいかないから…




 だから今から様子を見に行こうと思ってて」




 「そうなんだ…じゃあ俺も一緒に行く」




 「何言い出すのよ~


 今から茜ちゃんたちと会うんでしょ?


 みんな待ってるわよ。


 ほら、早く行かないと!


 それに…文人に風邪が移っても困るし…


 文人は今日は、おばさん家に泊めてもらわないといけないかも知れないから…




 ご迷惑かけないように良い子にしてるのよ」




 「えっ…でも」




 「もう~


 ほら、文人も早く行かないと。


 茜ちゃんたちを待たせたら悪いでしょ。


 ばあちゃんのことは心配いらないから。


 私に任せて早く行ってきなさい。


 ほら、せっかくのお祭りなんだし…


 そんな顔してないで、楽しんで来なさいね!」




 と、言って文人を玄関から押し出す洋子。


 そんな文人は不安を抱えたまま二人の待つ公園へ歩みを進めるのであった。


 そして、公園に到着した文人。


 洋子から楽しんで来るようにと言われたものの、大のばあちゃんっ子な文人はばあちゃんの容態が心配で仕方がなかった。


 今すぐにでも駆け付けて看病をしたいほどに…。






 「あっ~!やっと文人が来た!


 もう相変わらず遅いんだから…


 夜は遅れないで来てよね」




 と、文人に注意喚起する茜。




 「うん。ごめん…」




 「それじゃあ、みんな揃ったし今から何して遊ぶ…?


 今日はお祭りがあるし早めに帰らないとだけど…」




 「そうだよなぁ…今日は祭りの日だもんなぁ…


 そう言えば、何時でどこで集まるかも決めてなかったよな?


 どうしようか?」




 陸と、茜の会話がしばらく続く。




 「…6時ぐらいかな?


 待ち合わせ場所は…神社に一番近い文人の家で良いんじゃない?」




 「いや、俺は茜の家の方が良いと思う」




 「えっ?どうして?


 私の家だと、文人がわざわざうちに来ないといけなくなっちゃうけど…」




 「そんな細かいこと茜は心配しなくて良いって!


 なぁ、文人?」




 「うん。


 別に俺はどこでもいいし…二人に任せるよ」




 「それなら決まりな」




 と、半ば強引に待ち合わせ場所を決めた陸。


 茜の負担を少しでも減らそうと気を利かせたつもりであった。




 「まぁ、二人がそう言うならそれで良いっか!


 それで決まりね!


 それなら6時までの間どうしようか?


 文人は何かしたいことないの?」 




 「・・・」




 文人に問い掛けた茜だったが、上の空な文人からは何も返って来なかった。




 (ばあちゃん…今頃どうしてるだろう?


 何とか少しでも役に立てること無いかなぁ…




 昨日から熱出てるって言ってたよなぁ…




 今はどのぐらい熱があるんだろう…




 そう言えば、病院は行ったのかな?


 今日は日曜日だし空いてないんじゃ…)




 「文人~


 ねぇ、文人ったら!」




 文人の顔の前で手を振りながら声を掛け続ける茜。




 「…うん?


 …何か言った?」




 ようやく文人が茜の声に気付いた。




 「どうした?文人。


 何かあったか…?」




 あまりの様子のおかしさに陸が問い掛けた。




 「ううん…別に、何もないよ」




 「そうか…


 そう言えばお前ん家、新しいゲーム買ったって言ってたよな?


 今度みんなでやろうって言ってたし、今から行ってもいいか?」




 陸が提案をした。




 「…いいよ。今日は母さんも出掛けるし」




 「それじゃあ決まりな。」




 陸と、文人にて本日の遊び場所は決まったが、茜は文人の様子が気掛かりで仕方がなかった。




 「本当に何もないの?


 文人、何か隠してるんじゃない…?」




 「何もないって」




 (どうせ茜に言ったってまたバカにされるかも知れないし…)




 「何もないってさっきから様子が変だし…


 あっ、もしかしてまたばあちゃんのこと考えてるの~?」




 「そんなんじゃないよ…」




 「どっちにしても別に隠さなくても良いじゃない。


 何かあったなら相談してくれても!」




 文人に詰め寄る茜。


 次の瞬間…






 「もう、しつこいなぁ!


 何もないって言ってるじゃん!!」






 詰め寄る茜を振り払うようにして勢いよく文人は言った。


 ばあちゃんの容態が気掛かりであることに、何も出来ない不甲斐なさ、二人に本音を伝えることの出来ないもどかしさなどで、文人の精神面も限界を越えていた。




 〈ドッスン!〉




 文人があまりにも勢いよく振り払ってしまった為に、茜はその場に尻餅をついてしまった。




 「…って何よ。




 …何するのよ。




 何なのよ…その言い方!




 人がこんなに心配してるのに…。




 文人のバカ!!」






 〈タッタッタッ〉




 と、涙を振り払いながら走り出す茜。


 そのまま、物凄い勢いで公園から走り去っていった。




 「おっ、おい。茜~!」




 すぐさま追いかける陸。


 そんな陸を余所目よそめにただ呆然と立ち尽くす文人であった。




 【現代】




 「うん?結香からメッセージが来てる…


 何だろう…?」




 『大沢、ごめん~!


 さっき連絡したとき場所がどこか入れるの忘れてた~(((^^;)


 境内のすぐ近くの石段に居るから!


 てか、早く来なさい~!』 




 続けて、もう一通届いていた。




 『ごめん。茜と少し揉めた。


 それからちょっと気まずくなって…


 さっき、トイレに行くって言ってどこか行っちゃった。


 たぶん、一人になりたかったんだと思う。』




 (茜…)




 〈タッタッタッ〉




 結香からのメッセージ内容を見た文人は、迷う気持ちを払いのけ走り出した。


 ただ、無我夢中で。






 【予告】


 立ち尽くす文人と走り出した文人。


 何年かの時を経て両者は同じに向かって動き出す。


 その先にある未来とは…




 次回【(11)約束のアクセサリー】

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