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@ryou0703

第3話

混雑した人の中にいるはずが、なぜか彼の姿がはっきりと見えた。大きくてくりっとした目、帽子の隙間から見える金髪、それほど高くない身長、あの時と何も変わらず、彼はそこに立っていた。私は少し緊張した面持ちで彼の方へ向かった。


「ごめんね、待たせて。久しぶり。」


本当なら私の方が待っていたはずなのに、緊張していたためかこんな言葉しか出てこなかった。


「久しぶり。別にいいよ。どこ行ってたの?」

「センター街の方ウロウロしてた。渋谷来たの久々だから迷っちゃって。」

「なんか買い物でもしたの?」

「ううん、特になにも。散歩してただけだし。」



人懐っこい喋り方。話しているうちに彼がどんな人物であったかを思い出した。ちゃんと人の話を聞いている、そんな彼に私はあの時執着していたんだと思う。彼が途中でいなくなってしまうまでは。そんな何気ない会話を終え、彼が「じゃあ、行こ。」と、歩き出した。私たちの関係からしていく場所はわかっていたが、あえて「どこ行くの?」と聞くと、「んー、とりま道玄坂の方かな。」と彼は答えた。


ーやっぱり。ー


マッチングアプリで知り合った男女だ、行く場所なんて一つしかない。たとえ偶然の再会だったとしても、昔と今で私たちの関係は変わっておらず、同じことを繰り返すのだと私は少しでも浮かれていた自分を正した。

スクランブル交差点を渡り、渋谷109を通り越したその先に道玄坂はある。大通りの途中の道を曲がると見えて来るその場所は男女の色ごとの空気で満ちている。途中コンビニに寄って買い物を済ませた後、私たちは適当なホテルに入った。

ラブホテルは良い。ビジネスホテルより価格が安いにも関わらず、部屋、ベット、風呂、どれも広い。部屋は綺麗に整頓されてはいるものの、ここで誰かが色ごとをなしていたのかと考えると、私は少し固まってしまう。潔癖症というわけではない。これから私もことをなすのかと考えてしまうと緊張してしまうのである。部屋に入り、荷物を近くのソファーに置いた後、二人並んでベットに腰をかけた。そこからは早かった。彼からキスをされ、それが深まっていくと今度は上から胸を触られた。ここで拒めないのは、この関係に自分も納得してしまっているからだと思う。下を撫でられ濡れ始めると、服を脱がし、体を倒された。いろいろ聞きたいことがあった。なぜ途中でいなくなってしまったのか、一体これまで何をしてたのか。犯されながらそんなことが頭の中で回っていたが、彼が乳首を舐め始めた頃、私はそんなことはどうでもよくなってしまっていた。彼が服を脱ぎ、彼の体温と下の快感を感じながら、私はただ喘ぐしかなかった。彼が買ったコンビニの袋には、飲み物とおにぎりが1つだけ入っていた。


ことをなした私たちは2人で湯船に浸かった。久々の湯船だと笑う彼に、聞くなら今しかないと頭のもやをぶつけようとしたが、何かが遮ってそれを阻止した。これを聞いてしまったらまた彼が消えてしまうような、そんな気持ちがした。

深夜1:00過ぎ、私たちは広いベットで二人並んで横になった。今日は疲れた、もう寝よう。ふと隣にいる彼を見ると、テレビを見ていた。「寝ないの?」と聞くと、「眠れないんだ、先寝てていいよ。」と彼は言った。改めて、やはり彼が横にいるのが不思議だった。夢なのかもしれない、明日の朝、彼がいなくなっているかもしれない。そんな不安を抱えながら、私は彼の横で一人眠った。

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