検索代行者の軌道

川口健伍

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 まずぼくたちの仕事を説明しなければならないだろう。

 ぼくは、ぼくたちは、いま生成されつつあるテクストだ。小説という形式を通して回答を得る、そのために用意された検索代行者エージェントであり、感情を持っているように振る舞ってはいるが、複雑すぎるアルゴリズムに対して読者が感情を読み取っているに過ぎない。元より小説は文字の羅列であり、その羅列に読者が一喜一憂するように、ぼくたちはまったく小説そのものだ。無から物語が創造されるなんて考えるのは物を作ったことのない素人だ。オリジナリティなんて引用元を知らない無知な輩の戯言だ。ぼくたちは検索対象のライフログを元に、かつてあったような世界を構築する。検索対象そのものを登場人物とした小説を生成するのだ。記録されたあらゆる要素のひとつひとつが、アルゴリズムとその回答に影響を与える。このテクストは幾度とない試行、そのうちの一回にしか過ぎない。検索代行者ぼくたちは同時に、検索のための小説生成を行う。そうやって得られた小説を、回答を待ちわびている依頼人クライアントのもとに届けるのだ。小説を読み、依頼人は自身の意味を考える。――こう書くと残酷かもしれないが、結局のところホモ・サピエンスが思い悩むのはその人生の一過性の中で、己の役割を言語化できるかどうかなのだ。その点、ぼくたちは明確だ。問いかけ。ただそれだけだ。そして今、その軌道が走り始める。

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