第11話 これが武器!?
思っていたよりかなり多い大金を受け取った私たちは、彼らの店を出て次の店に向かう。
「こんなに貰って良いのかな?カインの知り合いだからって、ジオルクさん奮発したんじゃなければ良いけど・・・」
カインは、私の10倍以上は受け取ってたけどね・・・。
「彼も商人だから、それは無いよ。それに、申し訳ないと思っちゃダメだからね。これは商売だから相手にも失礼だし、悪どい奴らには足元を見られるからね」
そう言われるとな~。でも、対して苦労もせず手に入れた物と引き換えに、大金を渡されて申し訳ないんだよね。だけど、カインの言葉にも一理あるしな~。ん~・・・。
「それもそうだけどね・・・」
日本に居た時と違って、この世界で私は、自分で取引をしないといけない。会社に雇われ、やってきたのは事務の仕事だけ、平々凡々と生きてきた私にとっては、自分で取引や交渉など無縁のことだった。しかし、知らない土地で生きていくには、やったことがないことも、やりたくないことも、出来ないことも、なんでもやらなくてならない。それって、とても重要なことだよね。彼らもそうなんだと思う。
「あ、ヨシュアさんだけど、あのままで良かったの?」
私たちが帰る時も、ずっとブツブツ言っていたヨシュアさんを思い出して、カインに尋ねる。
「問題ないよ、いつものことだから。数日はあんな感じかな」
「数日?大丈夫なの、食事とか」
「親鳥が雛鳥に餌を運ぶかのように、使用人が口元に食事を持っていって食べさせているらしいよ」
「え!?・・・でも、それは目に浮かぶね」
喋りながら歩いていると、ある1つの店の扉から足が覗いているのが見えた。倒れたか、理由があって横たわっているのか、地面に足が投げ出されている状態だ。
「カイン!あれ、誰か倒れてるみたい」
「あ、あれか・・・」
そう言いながら駆け寄ると、明るい茶色の髪をした30代半ばくらいの男性が横たわっていた。
「大丈夫ですか!?・・・うっ」
抱き起こそうと近づくと、半端じゃない量を飲んだのではないかというくらい、お酒の匂いがキツかった。その臭いに思わず鼻を摘まむ。
「ゲイル、また飲み過ぎたのか。その内、体を壊すぞ」
カインは、ゲイルと呼んだ男を抱き起こした。
「・・・ほっといて・・・くれ!どーせ・・・オレなんて・・・」
その男のしゃべりが呂律の回らない状態ので、何を言いたいのかがわからない。
「中に入るぞ」
カインが、片手でゲイルさんを引きずって店の中に入るので、私もそれに続いた。
こぢんまりとした店の中は、包丁や鍋など金属の日用品が多数並べてあった。それも、乱雑に・・・。
「うわっ・・・」
ひ、酷すぎる、この汚さ・・・。
顔が引きつりながら、歪に積み上げた商品を見ていると、カインはカウンターを背もたれにしてゲイルさんの背を預けていた。
この傾き方で崩れないって、ある意味物を重ねる天才?あ、でも、コレどうやって取るんだろう?この下の方にある商品って、触っただけで崩れそうなんだけど・・・。
そんな中、カウンターの脇に無造作に置いてある包丁が、何となく気になって手に取った。
ちょっと、鑑定させてもらおうかな・・・って、えっ!?
【包丁】:包丁という名の武器。短剣に近い。オークの骨もスパッと切断できる。料理に使うには不向き。
STR(攻撃力):180
付与:切断(オークの骨のみ)
製作者:ゲイル
「えっ!?コレ、どういうこと?」
ほ、包丁という名の武器!?料理に使うには不向きって、ソレ意味ないじゃん!攻撃力と付与まで付いてるしっ!!
「・・・あ、あの!これっ!!この包丁は、なっ何なんですか!?」
「っ!?」
この不思議な包丁もどきのことが聞きたくて、カインから受け取った木製のコップに入った水を、ぐいっと呷っていたゲイルさんに、慌てて勢い良く突き付けた。刃先の方を・・・。
「・・・ゴボッ!ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ・・・危ねぇな!!ソレ、こっちに向けんなよっ。酔いが冷めちまっただろうがっ!」
そんなことをした私に、ゲイルさんが立ち上がって怒鳴る。
「あ、ごめんなさい!思わず・・・というか、これ可笑しいですよっ!!」
「どうした、何が可笑しいんだ?」
そう聞いてきたのは、まだ喉の違和感を整えているゲイルさんではなく、カインだった。あまり大声を出さない私が、大きな声を張り上げたことに驚いたようで、それにカインが食いついてきたのだ。
「カイン!これ、『鑑定』してみて」
「あぁ、わかった・・・ん?これは・・・」
包丁を渡すと直ぐに鑑定をしたカインは、あり得ない内容に驚き固まってしまった。
「なんだ?その包丁がどうした?」
喉の違和感が落ち着いたのか、灰色の瞳をカインに向けてゲイルさんが問う。
「ゲイル、これを作る時、何を考えていた?」
固まっていたカインも、ゲイルさんの言葉に我にかえって逆に聞いた。
「ん?・・・あぁ!それな。確か、肉屋のエマが言ってたんだよ。オークの肉を切ると直ぐ包丁がダメになるって。だから、オークの肉を切っても、切れ味が変わらないヤツを打とう!ついでに骨までスパッと切れるヤツを!ってな」
あ、ちょっとヨシュアさん系のタイプに近いかも・・・。
ゲイルさんの嬉しそうに話す態度に、先ほどまで会っていた、ヨシュアさんのことが頭に浮かぶ。
「しかし、そう思って打った包丁が、『包丁という名の武器』になっているぞ」
「はぁ?・・・オレが打ったのは、普通の包丁だぞ。何で、そんな意味がわからないモノになるんだ?」
全く、意味がわからないというふうに、ゲイルさんは首を傾げる。
ということは・・・。
近くにあった片手鍋を手に取り、鑑定してみる。
【片手鍋】:片手鍋という名の武器。メイスに分類する。料理に使うには不向き。
STR(攻撃力):90
付与:火属性耐性
製作者:ゲイル
・・・・・・。
「カイン、これも見てみて・・・」
説明するより、自分で確認した方が良いだろうと、カインに片手鍋もどきを渡す。
「もしかして、コレもか・・・あぁ、やっぱり・・・ゲイル、コレは何を考えて打った?」
「それか?それはだな、片手鍋ってずっと使ってると焦げ付いてくるだろ。だから、焦げ付かないヤツを!ってな・・・っていうか、先から何なんだ?訳わからんこと聞いてくるなー」
ため息混じりのカインの質問に、ゲイルさんはまた首を傾げるが、こっちは首を横に振る。
いやいやいや、訳がわからないのはこっちですよー。
「訳がわからないのはこっちだ」
同じことを思っていたカインの言葉に、うんうんと私は頷く。
「普通の鍛冶職人は、付与なんて出来ない。お前のステータスに付与魔法はないんだろう?」
「あぁ、それがどうした?付与なんぞ付けれるわけがない。これだって付けてないぞ」
へー、鍛冶職人って付与できないんだ・・・いや、そっちじゃなくて!何故か、"武器になっている"方だから!
「・・・あっ!」
鑑定してみれば良いんだ!ゲイルさんを!
カインが、呆れたように言った言葉に閃く。
「・・・あの、ゲイルさん。わっ私はノアって言います。・・・そっそれでですね・・・その、今、私は『鑑定』のスキルの勉強中でして・・・それで、あの・・・なっなので、『鑑定』させて頂けませんか!!もちろん、無料で!!」
突然言い出した私の言葉を、驚いたような困ったような感じだが、黙って聞いてくれているゲイルさんに、ガバッと頭を下げてお願いをする。だが、それと同時にお店の扉が開いて、誰かが入ってきた。
「こんにちは。ゲイルさんいらっしゃいますか?」
夕焼けのような朱色の瞳に、落ち着いた色合いのダークレッドの髪を脇に流すように1つに縛った、20代半ばのスラリとした健康そうな女性が、店の入り口の扉の前に立っていた。
「あぁ、あんたか。何回来ても答えは同じだ。すまないが、帰ってくれ」
「いえ、お客様がいらしたのですね。出直して参ります。夕方あたりに伺いますので、失礼します」
その女性にゲイルさんが迷惑そうに声をかけるが、彼女はそう言ってお店を出ていった。
それを黙って3人で見送ると、ゲイルさんは私たちに向き直った。
「・・・ノアって言うのか?挨拶が遅れたな。オレはゲイルって言うんだ。カインがツレを連れて来るなんて、珍しいことがあるんだなー。でもよぉ、『鑑定』なんぞやってもらったことないんだが、良いのか?確か、べらぼうに高かったはずだ」
「え?『鑑定』してもらうのって高いの?」
鑑定ってそんなに難しくないのにと不思議に思い、カインに確認してみる。
「あぁ、そうだな。詳細なステータスの『鑑定』は高レベルの者しかできないから、普通に見てもらうにはこの町で金貨1枚くらいだな」
「もっとする所もあるぞ」
二人の言葉に驚く。鑑定が、そんなに高額だとは思わなかった。
あれ?でも、職業はわかっているんだよね?鑑定してないはずなのに・・・。
「でも、職業はわかっているんですよね?」
「そりゃ、『職業判定』は受けたからな」
「『鑑定』とは違うんですか?」
「ノアは、俺と同じ来訪者だ。だから、来たばかりでこの世界のことが、まだ疎いんだ。ノア、すまない。きちんと説明していなかった」
「そうなのか?そりゃ、大変だったな・・・」
「いえ・・・」
カインの説明にゲイルさんは、沁々とそう言ってくれるが、苦労もしていないのでそれが申し訳なく感じ、カインも謝ることないのにと、それにも申し訳なく感じた。
「では簡単に説明すると、一般的には『鑑定』にもレベルがある。低レベルの『鑑定』しか出来ない者に、自分に合う職業のみを見てもらう『職業判定』と、高レベルの『鑑定』が出来る者に、詳細がわかるステータスを調べてもらう『職業鑑定』がある。その『職業鑑定』の殆どが、貴族か上位ランクの冒険者が受けるんだ」
「・・・そうなんだ。その『職業判定』の『鑑定』は、レベルを上げるためのもの?」
カインの説明で、『職業判定』も同じ『鑑定』なのだと理解した。
「あぁ、そうだ。『鑑定』のレベルが低い者が、レベルアップするための小遣い稼ぎだな」
「そいうことだ。練習でも、ただで『鑑定』してもらうのは、わりーからな。それに、やってもらうのには、それなりの礼をしたいが、見てのとおりこの店は常に閑古鳥が鳴いてんだ。すまねぇなー」
そんなことを言うゲイルさんは、嘘のつけないお人好しなのだろう。
「いえ、あの、実は・・・『鑑定』の練習ではなくて、商品を勝手に『鑑定』したら気になる結果が出てまして・・・ごめんなさい!」
「ん?どういうことだ?別に勝手に『鑑定』しても、オレは全然かまわねぇが・・・」
本当にすまなさそうに言うので、誤魔化すのが心苦しくなり謝ると、ゲイルさんはキョトンとした。
「ノア、俺が説明する。『鑑定』の結果だが、この包丁もこの片手鍋も調理道具ではなく、武器になっている」
「はぁ?んな訳ねーだろっ。どう見たって、包丁と片手鍋だろ」
自分が言った方が早いだろうと、カインが鑑定の結果の一部を言うが、それに対して納得いかないというふうに、ゲイルさんが反論する。
「だから、包丁の形をした武器と、片手鍋の形をした武器になっている」
「なんだソレ・・・いやでも、カインが冗談言うわけねぇよな・・・じゃ、これは調理道具としては使えねえのか?」
「あぁ、不向きだと出ている」
「だからかー。包丁は食材が切れない、片手鍋は火にかけても鍋自体が熱くならないって返品されたのは!!」
カインが嘘を言うことがないと、わかっているのだろう。直ぐにゲイルさんは頭を抱え、わざと明るく大きな声でそう言って、ガクッと脱力してカウンターに項垂れる。
「っていうことは、ここにあんの全部か!?」
カウンターに体を預けたまま、ガバッと頭を上げてこちらを振り返る。
「だろうな・・・」
「たぶん・・・」
「ま、道理で、ってな感じだな。包丁とか刃物系は、たまーに売れっから変だなって思ってたんだ。それも冒険者で同じヤツ数人にだ」
諦めたようにカウンターに預けていた体を起こして、頭を豪快に掻いた。
「包丁で、魔物と戦っていたということ?コワッ」
「ま、短剣使いだったら、使えるんじゃないか?」
包丁で戦うって怖いと思ってそう言うと、カインが普通なことのように言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます