第74話 抜けた先
スキルをゲットして真っ直ぐ進んだところまではよかったが、相変わらずブリザード真っ只中だ。
そんなに俺を冷凍保存したいのかよ。
生憎だが生きたまま凍らされるなんて真っ平だぞ。
俺は今を生きていたいんだ。
「しかしそろそろ変化があってもいいと思うんだけどね〜〜……」
さっきイエティに会っただけで、そのほかの魔物や植物、環境にさえまだ出会っていない。
「寒さがマシになったとはいえ、さすがに天候だけはどうにもならないよな……」
天候を変えるスキルなんてあればとても便利だな〜、なんて思うこともあるがそんなことが出来るのは神ぐらいだろう。
天候を変えられる魔王なんて歴史上最強じゃん。絶対崇められるじゃん。そして絶対首を狙われるじゃん。
「まぁ、そんなスキルが今後得られたらいいな」
今考えても仕方ない。希望的観測なんて大概その場では叶わないもんだ。
無い物は強請らない。今自分にできることでこの現状を打破するしかない。
「よし、そうと決まればブリザード抜けるまで延々と歩いてやるよ………!」
同じ景色すぎて俺のテンションが変な方向に向かっている気がする。何故か無性に叫びたいし、今ならアメリカ大陸を歩いて渡れるだろうというまず不可能な根拠のない自信が湧いてくる。
「よっしゃあ!!俺なら出来るぜぇぇぇぇぇぇ!!」
誰か助けて。テンションが天元突破したよ。
もうこのテンションを自分で止めることができないんだよ。
しかしこのテンションを抑えるような出来事が発生した。
「あれ?急にブリザードが止んだ?」
視界を全て覆うように吹き荒れていたブリザードが何の前触れもなくぴたっと止んだのだ。さっきまでの吹雪が嘘であったかのように。
まるで土砂降りの雨が止み、太陽が出てきたかのようだ。
しかしブリザードが止んだ訳ではなかった。
後ろを振り返ると視界を覆うような吹雪がまだ吹き荒れている。
まるである境界線を皮切りに、その場所だけに吹雪が吹き荒れているようだ。
真後ろは悪天候だが、俺が立っている場所は快晴だ。
だからこそ俺はこの土地の本当の姿をやっと見ることができた。
まるで一面が氷で出来ているような世界だ。花も魔物も植物も、全てが氷で出来ているような透明度と雰囲気がある。
遠方にはバカでかい氷山が見え、空を見上げれば昼間なのにオーロラが見える。
太陽が氷に反射して少し眩しい。
「すげぇ………」
こんな綺麗な景色初めて見た……
人は綺麗すぎるものを見たとき語彙力が死ぬと聞いたことがあるが、まさにその通りだ。
先程から思考が『すげぇ…』で埋め尽くされている。
「異世界転生してこんな綺麗な景色見れるなんて、魔王さまさまだな。しかしなんでこんな綺麗なのにみんな来ないんだろう?」
確かにめちゃくちゃ寒いし天候が激しいけどブリザードに当たらなければここまで来れるんじゃないか?
さすがに何百年も人が入ったことがないのは嘘だろうと思い始めたところ、その証言を裏付けるような事実に気づいてしまった。
「このブリザード……どこまで続いてんの?」
後ろを振り返ってブリザードを見る。このブリザードは壁のようにはるか先まで続いている
気になったから空を飛び上から見渡そうとしたが、どこまで上昇してもこの吹雪の壁が終わらない。
さらに上に上がって初めて気がついたが、この極冬の冷地を取り囲むようにブリザードは続いている。
それはまるで何かを守るかのように。そして何・か・を・外・に・出・さ・な・い・よ・う・に・す・る・た・め・に・。
「……何か嫌な予感がする陣形だよな。まぁいいや、俺が思っているような展開にはならないだろ」
俺の脳裏によぎった可能性を片隅に追いやり、ひとまず地上に降りた。
「せっかく誰も辿り着けない秘境に着いたんだ。フローリアを探すこともそうだが、俺自身も楽しまなきゃ損だよな!」
気持ちを切り替えていこう!
だってこんなにも景色が綺麗なんだ!
見てくれよこの花、ガラスみたいだぜ?
それにこっちなんて寒すぎるのに川が凍らずに流れてるんだぜ?
たったそれだけなのにめちゃくちゃテンション上がるな。さっき飛んだ時にガラスで出来たゴーレムみたいなのもいたから探してみよ。
さていざ出発!!
つるっ………ゴン!
開始1歩目、地面が凍っていたせいかバナナの皮を踏んでサマーソルトを決めたかのように転倒。そしてバックドロップをくらったかのように後頭部から落下。
無様な魔王の出来上がりである。
「いった………、これ幸先不安ってレベルじゃねぇぞ…………」
開始1歩目からこけるとか、俺ついてなさすぎじゃない?しかも漫画のようなこけかたしたし。
まさか地面がこんなにもツルツルしてるとは思わなかった。ブリザードの中は普通に歩けたから、ここも普通に歩けると思ったのが裏目ったか……。
この土地の地面全てがスケートリンクみたいな感じだ。そりゃスケートリンクに普通の靴で立ち入ったらこけるわな。半回転したし。
「しかし甘いな。さっきは急なことで油断したが、俺はこう見えてスケートが得意なんだよ!」
普通の靴であろうと原理は一緒のはずだ。
まず乗る。そして滑る。つま先に力を入れ、少しスライドして止める。
するとどうだ、気づけば後頭部が地面に刺さっているではないか。
「あれ〜〜?俺得意なんだけどなー……」
信じてくれ、本当なんだ。日本にいた頃は『スケートの恭ちゃん』なんて呼ばれていたんだよ。
しかしここでは出来ない。これは憶測だが、誰も踏み入れてないから何の傷もない新品の氷なんだと思う。そしてここは特殊な環境下だ。日本以上に滑る氷があってもおかしくはない。
…………今更言っても全部言い訳に聞こえるな。
しかしまだ俺には秘策がある。
黒紋印はレベルアップのおかげで、俺が知ってる複雑ではない武器や防具は作れるようになった。てことはアレも作れるはずだ。
俺は形を思い出しながら黒紋印を発動する。すると見知った形に変わっていく。
「出来たぞ!黒紋印スケートシューズモードだ!」
靴も防具扱いになったようで、無事に作ることができた。刃まで真っ黒なスケートシューズ。
早速履いて氷の上を滑ってみると少しふらつくがこけることはなかった。
「これで少し練習すればこの土地を渡れるな」
その場でしばらくスケートの練習を楽しんだ。
……これは渡るためであって、決して楽しむためじゃないよ?本当だよ?
[その頃の魔王城]
ネア:「パンドラどこ行ったんすか?」
フィリア:「さぁ〜〜?」
バルカン:「どうせロクでもねぇ事でもしてるんじゃね?」
ドゴォォォオオオオオオオン……
3人:(あぁ、アソコか……)
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