第71話 探索装備を確保せよ
「娘から聞いたがお前達は南の大陸に向かう装備を得るためここに来たんだったな」
何とかリアル鬼ごっこから命からがら逃げ延びた俺にドラグノフさんが話しかけてくる。
正直逃げることに必死で忘れかけていた。
「ああそうだが、あの吹雪の中を進んでいけるような素材を使った装備なんてあるのか?」
一度体験したからわかるけど、あんな猛吹雪に耐えられる素材があるとは思えない。
「あるぞ。儂の鱗と毛を加工して作った装備だ。これには『極寒耐性』が付与されとるから寒い中でもへっちゃらだ」
あったわ、超一流の装備が。
炎竜王の素材を使った装備なんて一般市場にも出回らない激レアだろ。
それは赤を基調にした鎧のような、しかし軽さを重視しているためそこまでゴツゴツはしていない。ライトアーマーのようだ。
でも複雑だな。これの素材はこのイカレじじいの体の一部ってことだろ?なんか着ようと思えないんだよな。
「なんだその顔は。不満があるなら返せ!」
「いやいる!めっちゃいる!」
取り返そうとするドラグノフさんから死守するように装備をしまう。
「魔王よ、ひとつ忠告しておく。南の大陸には気をつけろ」
「忠告?あんたが珍しいな」
「儂はお前が死のうが知ったこっちゃないが、お前が死ねば娘が悲しむからな……」
これもドラグノフさんなりの優しさだろう。
でも死のうが知ったこっちゃないって言われたら腹立つけどね。一応心配してもらえてるから我慢するけどね。
しかしこの人ほどの実力者が気をつけろと言うということは、今回も一筋縄じゃいかなそうだな。
「南の大陸には気をつけろって、一体どういうことだ?」
「言葉通りの意味だ。貴様は3つの地域を回ったと聞いたが、今までと一緒だと思うな。極冬の冷地は、何百年と誰も足を踏み入れていない未開の大地だからだ。まぁ、例外もいるがな」
これは……思ったよりも厄介だな。
誰も足を踏み入れたことがない土地か……
じゃあ事前に情報を得ることは不可能だな。
そしてその例外というのが……
「フローリア……か」
「なんじゃ貴様。知っていたのか」
「ああ。一応部下なもんでね」
「なら話が早い。極冬の冷地を簡単に出入りできるのはそいつぐらいだ。実力的に言えばお前の方が強いと思うが、環境と相まって儂の装備でも近づけるかどうか分からん」
おいおい、とんでもねぇな。
ゴリゴリやる気が削られていくぜ……
「今回もどうせお前一人で向かうつもりじゃろ?」
「ああ。可愛い彼女達を危険な目に合わせたくないからな」
「まぁ、その意見には儂も賛成だ。娘を連れて行くと言ってたらこの場で焼き殺していたわ。だからこそ装備は1つしか渡してないんだからな」
こんな話聞かされたら尚更連れて行くわけにはいかない。魔王国随一の危険地域。そこに住む魔王城随一の強さを誇る四魔天フローリア。
一体どんな奴なんだろう。ワクワクするな。
そして今回も仲良くお留守番を頼もうか。
そして俺も5体満足で帰ってこないとな。
俺の命はもう俺一人のものではないのだから。
「よし覚悟は決まった。行ってくるよ、極冬の冷地へ。そしてフローリアを連れて帰る」
「ああ。だがくれぐれも娘を心配させるなよ?もし娘を泣かしたら黄泉の国まで行ってもう一回殺すからな」
「おい、俺が死んだ過程で話を進めるな」
「すまんすまん、なんかお前はその辺でのたれ死んでそうだったからな」
このジジイ………!めっちゃ笑顔で失礼なこと言いやがって……!
そっちがその気ならこっちだって本気を出させてもらおうか……!
「レーネさーん!!ドラグノフさんが町の竜娘達をいやらしい目で見てましたよーーーー!!」
「おまっ…!!なんてことしやがる!?」
「はっはっは!失礼なこと言われたことに対してのささやかな復讐さ!」
「そっちがその気なら儂だって……!おーい、我が娘よ!このクソ魔王、彼女候補があと10人もいるらしいぞ!もう町の娘達に声かけようとしてたぞーーー!」
「てめぇ!!それはなしだろう!?」
心なしか一瞬で辺りの空気の温度が変わったような気がする。
おかしいな?ここはとても暑いはずなのにさっきから冷や汗が止まらねぇよ?
ドラグノフさんも冷や汗がすごい。
そして本能が叫んでいる。
今後ろを振り返れば死ぬと。
後ろだけは見てはいけない。後ろだけは……
「あなた?」
「ゼノン?」
その声を聞いた瞬間情け無い声と一緒に肺の中の空気も全部飛び出ていったと思う。
俺達は足がすくんで動けない。それを嘲笑うかのように死神の足元がだんだんと近づいてくる。
だんだんと近づいて来た音が不意に止まった途端、ガシッと肩を掴まれ…………
この日の出来事を、竜人の里では伝説として語り継がれるようになる。
一方は全ての竜人を支える最強の王である炎竜王。
もう一方は全ての魔族の頂点に立つ魔王。
その最強の存在と謳われている両者が現在正座をさせられ、2人並んで怒られている。
有無を言わさぬ2人の女性の気迫に住民達は遠巻きから黙って見ていることしかできなかった。
そしてこの日、男達は不用意に女性を怒らしてはいけないということを心に刻んだ。
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