束の間の幸せ

 高校の3年の、春の日差しが心地よく差し込む窓際。歓談の声が飛び交う教室。


「なあ広、女の子紹介してくれよー」


「だから、そんな子いねえって。何度目だよ。」


「リアル3じゃね?」


「純ってバカだから数も数えらんねーのか。4回目だよ、4回目。」


 どうやら彼女が欲しいらしいこいつは平純也。俺の親友で、小学校から高校までずっと一緒だ。バカで間抜けだけど明るくていいやつだ。そいつに物理的に絡まれている俺は岡崎広。


「あはは、またバカなこと言ってる!ねー、涼ちゃん。」


「ほんと。うちは進学校のはずなのだけれど。花、広くん助けてあげなきゃ。」


「あはは、いいよ、楽しそうだし」


 このひと際明るく笑うのが藤崎花。髪は長くて見た目はおとなしげだけれど、話してみると明るくて楽しいやつ。まあ一応俺の彼女だ。その隣にいるのが花村涼。髪は短いんだけれど、クールでとにかく美人。でも気取らないで気さくなところがいいところだ。純と幼馴染らしいけれど、付き合ってるとかそんな話は聞いたことがない。仲はすごく良いんだけれど。


「ああ、フラワーズ来てくれた。ちょっと助けてくれよ。」


 フラワーズってのは氏名に花の文字が入ってる花と花村のペアのことで、美少女コンビなんて言われている。もともと仲の良い2人に周りがつけた名称らしいが、一周回ってダサいような、もともとダサいような。


「いやいや、広、俺のこと売る気かよ!」


 そういって純は大げさに嫌な顔を見せる。今日から新学期で、仲の良いこの4人が集まったことに興奮を隠せないでいる純。もちろん俺も楽しいし、ほかの2人も楽しそうだ。

 唐突に教室のドアが開き、担任の先生らしき男が入ってきた。


「はい、座れー。ホームルームするぞー。」


 生徒が全員着席した後、先生が黒板に名前を書き、話し始めた。


「こんにちは。まず、先生が自己紹介します。えー、国語科の戸田です、字はこれね。みんなの自己紹介は最初の国語の授業でしてもらいましょうかね。この時間は先に学級委員長を男女一名ずつ決めます。推薦、立候補ありませんか?」


 男子全員の視線が俺に集まる。まぁそんなところだと思ったけれど・・・。

 はあ、仕方ない。


「俺、去年生徒会長だったんで委員長しますよ。」


 じゃあ男子は決定だね、と言うと自然に拍手が起きる。

 さすが、主人”広”だもんな、と純が言う。それ中学校から言ってるけどあんま上手くないぞと俺は返す。

 女子はどう?という問いかけに1人だけ挙手をして答える。花村だ。


「私やってもいいですか?」


 花村は学年でトップレベルに賢いから、俺とは違って進学に内申点は必要ないはずだけれど、それでも花村なら頼もしい。


「じゃあこの2人ということで。早く決まったからあとは自習ね。」


 そういって戸田先生は教室を後にした。


 ―――――――――――――――


「いやぁ、2人がクラス代表なのいいね、なんか。お似合いだよ。俺じゃなくてほっとしてるわ。」


「ほんとほんと!純君、筆記試験は得意なんだけど常識知らずっていうか超絶バカっていうか、そゆとこあるもんね。」


 花村はトップレベルに賢いけれど、純はいつもトップにいる。


「勉強だけは広に負けたくねえからなぁ。って言いすぎじゃね!?」


「勉強だけはって他にそんな競争することないだろ。」


「あ、そうか。確かにそうだわ。」


「もっと考えて発言しなさいよ。こんな幼馴染に負けてるなんて悔しさを通り越して呆れてくるわ。」


 あはは、と花が笑う。花村が純に強めのデコピンをする。それを見て俺も笑う。



 幸せって築くのは大変だけれど、壊れてしまうのは一瞬だ。壊れた関係を修復するのはもっと大変だ。

 こんな平和な日常の中にいたら、これから4人の関係が壊れ始めることなんて気づけるはずもない。少なくとも、それはもう少し先の話であるのだけれど。

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