Ballade バラッドに抱かれて

森出雲

シーン1~9

シーン1

―― マンションの一室 


白いカーテンが、窓から流れる初夏の軽い風で揺れている。少し広めのワンルームマンション。

窓のすぐ横には木製のセミダブルのベッドがある。ベッドの隅には、クマのぬいぐるみ。枕元には目覚まし時計があった。ベッドの横には、背の低い小さなテーブルとクッションがいくつかあり、その前にはテレビボードに小型の液晶テレビがある。テレビの近くにドライフラワーや陶器の置物、本などが並んで置いてあった。


SE スズメの鳴き声。さわさわと流れる風の音。



シーン2

―― ベッドの上


仰向けに寝る裸の男性の胸に添えられた、ほっそりとした指。綺麗にマニュキュアが塗られている。

うつ伏せに眠る華奢な女性の肩と背中。薄いブルーのシーツと黒髪がかかっている。

逞しい男性の肩。静かな呼吸で胸が上下している。

シーツに包まって眠る二人。

男性、伊野 朱雀(いの すざく)

女性、桜木 詩衣(さくらぎ しい)

枕もとに置かれたスマートフォンから、音楽が流れる。


BGM IN~



シーン3

―― 再び部屋の中


棚の上に整頓され、綺麗に並んだCD。テーブルの上には、空になったワインボトル。二人分のグラス。食べ残しのチーズとクラッカー。遊んだままのトランプ。

壁にかけられ、仲良く並んだ女性用の上着と男性用のジャンパー。


タイトルIN

「Balladeに抱かれて」


脱ぎ散らかされた二人の服。

再び、揺れるカーテン。窓の外、明るい日差し。


タイトルOUT



シーン4

―― ベッドの上。


のろのろとした動作で綺麗な指の詩衣がスマホを見る。

身体を起こし、髪をかきあげる。揺れるカーテンの向こうには、透き通った青空が見える。


スマホ画面。

踊るキャラクター(インディアン)。

SE 「おはよう9時だ!」

指先で、OFFボタンを押す詩衣。


伸びをする詩衣。

ゆっくりとした動作で詩衣を抱き寄せる朱雀。くちづけ。

一瞬の間をおいて、朱雀から逃げるように詩衣。


詩衣「ほら起きて、九時だよ」

仕方なく詩衣を離す朱雀。

背中を向ける朱雀。

詩衣「ほら、起きて」

ベッドの上で欠伸をする詩衣。

揺れるカーテンの向こうに初夏の都会。

 


シーン5

―― 朱雀の部屋


SE IN キャベツをきざむ音。

小さな台所で朝食を作る詩衣。白いプリントシャツに、デニムのミニスカート。そして、水色のエプロン。

小さな皿に盛られたベーコンと潰れたオムレツ。その横に、きざんだキャベツとトマトを置く詩衣。

バスルームの扉が開き、腰にタオルを巻いた朱雀が出てくる。トースターから、こんがりと焼けた食パンを出しながら朱雀に尋ねる詩衣。

詩衣「コーヒー?紅茶?」

頭を手拭いで拭いている朱雀。

朱雀「牛乳」

詩衣「ハイハイ、それ持って行って」

冷蔵庫から牛乳パックを出す詩衣。細長いグラスに牛乳を注ぐ。

小さなテーブルに並んだ二人分の朝食。

上半身裸にバスタオルを巻いたまま、ジーンズ姿の朱雀がテーブルにつく。

ジャムをたっぷり塗ったトーストを朱雀に渡す詩衣。

詩衣「今日は?」

朱雀「学校。曲、作っちまわないと」

詩衣「そうか、来月だもんね。出来そう?」

朱雀「ま、何とかね。詩衣は、バイト?」

詩衣「うん、あ、もうこんな時間。遅刻、遅刻」

慌しく身支度をする詩衣。財布やハンカチを背負いバッグに入れる。そして、玄関に急ぐ。

朱雀「詩衣」

扉の前で、立ち止まる詩衣。片足をあげて、靴を履いている。

詩衣「なぁに?」

朱雀「うん、気をつけて」

微笑む詩衣。

詩衣「はーい。あ、食器台所に置いといて。じゃ、行って来ます」

小さく手を振る詩衣。

トーストをかじりながら見送る朱雀。閉まる扉。

残った牛乳を飲み干し、皿に盛られた朝食を頬張る。

朱雀「さてと」

立ち上がる朱雀。台所に食器を運ぶ。一つ伸びをして外出の準備を始める。

バッグにCDとノートパソコン、音楽プレーヤーを入れる。Tシャツを着て、靴を履き扉の前で、立ち止まって振り返る。

閉まっている窓。揺れないカーテン。小さくつぶやく。

朱雀「行って来ます」

閉まる扉。鍵をかける音。



シーン6

―― 乗合バスの車内


窓枠に肘をつき、外を見ながらバスに揺られる朱雀。

バスに追い越されて行く自転車。

手をつないで歩く母子。立ち話をする女性。腕時計を見て、走り出す男性。

何気なく見つめる朱雀。



シーン7

―― 大学校内、バスロータリー



ロータリーの停留所に止まるバス。降りてくる学生たち。



シーン8

数人の学生らしい人の後から降りてくる朱雀。

バッグを肩に掛け歩き出す。



シーン9

―― 大学 校舎内


狭い研究室のような部屋に入り、パソコンの電源を入れる。バッグから、CDを取り出す。

パソコンが起動している僅かな時間、窓を開け、外を眺める。

小さな広場があり、学生らしい数人が佇んでいる。ひとつ、伸びをしてパソコンの所に戻る。

起動したパソコンにCDを入れる。

読み込み画面。ファイルを開き、アプリケーションを立ち上げる。

パソコン画面上で、作曲を始める朱雀。



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