思いつき短編

メタロ

座敷わらしの幸運

 昔からよく、ツイてるね、と言われた。


 私はごく一般的な人間だ。顔はそこそこ、身長も大きすぎず小さすぎず、頭もけして悪くはないが自慢できるほどよくもない。誇れるような特技も持っていない。両親は幼いころに強盗にあって死んだ。顔はよく覚えていない。引き取ってくれた父方の祖父母も私が小学生の時に懸賞で当たった旅行先で事故にあって死んだ。

 その次に引き取ってくれたのは父方の叔父だった。叔父は小さな土建屋だったが、私が中学生の頃、周りの熱い支持で地方の議会に出馬し、見事当選した。のちに不正献金が見つかり、家族は散り散りになった。

 次に引き取ってくれたのは母方の伯母だった。彼女は私に関心を向けなかったが、新進気鋭の実業家である彼女の家はとても住み心地がよかった。私が高校を卒業する年、彼女には当時入れあげていた男がいたが、浮気が発覚、金をいくらか持ち逃げされ、絶望から行方知れずになった。

 母方の祖父母の家では、親戚たちによる遺産の話が絶えなかった。伯母は独身だったので、書類上、相続先の私は針の筵だった。相続する気はない旨を伝えると、争いは益々激しくなり、2時間サスペンス顔負けの殺人事件が事件が起こったりもした。警察に事情聴取されたのはあれが初めてだった。

 一人暮らしを始め工場に勤めていた時、一人の友人ができた。彼はミュージシャンを目指していた。出会って3年ほど経った時、その道では有名なプロデューサーがたまたま彼に目を付け、彼のメジャーデビューが決まった。彼は瞬く間にスターになったが、痴情のもつれから恋人だった女に刺され重傷、いまだに植物状態である。


 この世は不幸だらけであり、いつ死ぬかもわからない。今日という日を生きていられる幸運を、私は持っているのだ。

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