ポリリン・コレクション

西順

第1話 魔法少女アニメ

 青肌のポリリンは、密かに集めている物があった。とある外国の魔法少女のアニメだ。


 その赤肌の魔法少女は歌で戦う。魔法のステッキにはマイクが付いていて、歌声を響かせると敵が倒されていくのだ。毎回のボス戦での歌唱は圧巻で、そのアニメを観た日は興奮して眠れなくなる程だ。


 誰かとこの興奮を共有したいと願っていたポリリンだが、それは叶わぬ願いであった。


 ポリリンの国では歌は神聖なもので、平和をもたらす慈愛のものと規定されていた。歌で敵を倒すなど以ての外だったのだ。


 だから一人静かに、誰にも気付かれないように、ポリリンはその魔法少女のアニメを楽しんでいた。



 事が大きく動き始めたのは、ポリリンの国が、魔法少女のアニメを制作している国と世界会議で一戦交えた事から始まった。


 世界会議でも発言力の強いポリリンの国は、世界会議にたかる烏合の衆として、魔法少女アニメの国やその他の国を罵った。本来ならこんな事をすれば他の国からポリリンの国は袋叩きにあうのだが、発言力の強いポリリンの国、どの国も文句を言えずにいたが、魔法少女アニメの国が声を上げた。


 それがきっかけか、それ以前から火種が燻っていたのか、ポリリンの国は魔法少女アニメの国を敵国と見なし、経済制裁を与えていった。周辺諸国にも協力を強要し、魔法少女アニメの国は日々困窮に喘いでいく。



 それを見過ごせないとして声を上げたのが、ポリリンであった。


 ポリリンはネットで同調する同士を集め、国会議事堂の前でデモ行進を行った。警察に連行された。


 それでも諦めなかったポリリンは、釈放されると、今度はネットで世界中に呼び掛けた。


 ポリリンの国が不当な経済制裁を行い、一つの国が滅びようとしていると。しかしネットの反応は厳しいものだった。皆ウンともスンとも言わず、ポリリンの呼び掛けを無視して通り過ぎていった。


 それでもポリリンはめげずにネットで呼び掛け続けた。魔法少女アニメの国にはこんな素晴らしいものがある。食、服、建築、文化、ポリリンはその国に行った事はなかったが、魔法少女アニメのお蔭で、その国がとても好きになっていた。そして最後に魔法少女アニメをネットにアップした。


 ポリリンは警察に捕まった。神聖な歌を攻撃に使うアニメを、ネットにアップしたからだ。


 しかしポリリンの行為は無駄ではなかった。その魔法少女アニメは、ポリリンの国の政府がいくら削除しても、どこかで誰かがネットにアップし、いつも世界中で視聴されていた。


 そしてその出所を求めたネット民たちは、まだ削除されていなかったポリリンの他の記事に行き着き、魔法少女アニメの国の現状を知った。


 それを知ったネット民たちは声を上げ始め、いつしかそれは世界中で一大ムーブメントを巻き起こす事に。


 世界会議場のあるビルの前ではいつも誰かがデモを行い、捕まえても捕まえてもそれが途切れる事はなかった。


 こうして声が大きくなるにつれ、世界会議も世界各国も無視出来なくなっていった。


 世界会議が開かれる度に、ポリリンの国は各国から詰め寄られ、それらを無視していたポリリンの国でも、本格的にデモが各地で行われるようになると、いつまでもだんまりを決め込んでいられなくなった。


 ついに経済制裁を解除せざるおえなくなったポリリンの国。世界各国は歓喜に沸き、何より魔法少女アニメの国が喜びに包まれた。



 世界がそんな事になっていたとは知らなかったポリリンが、刑期を終えて刑務所から出てくると、一斉に詰め掛けるマスメディアの取材陣。それに四苦八苦するポリリン。


 一躍、時の人となっていたポリリンは、取材に追われる目まぐるしい日々を送っていた。そんなポリリンの元に吉報が知らされる。


 魔法少女アニメの国が、今回の功労者として、ポリリンを国賓として招待してくれたのだ。


 大喜びのポリリン。直ぐ様荷物をまとめると、夢にまで見た魔法少女アニメの国にやって来た。


 ポリリンは国賓として国民から大歓迎を受け、魔法少女アニメの国の各地を飛び回った。それは夢のような時間で、それはあっという間に過ぎていった。



 自国に戻ったポリリンは、取材をかわし自室に戻ると、魔法少女アニメを観だす。そして魔法少女アニメの国の事を思い出し、一人こう呟いた。


「何かちょっと違ってたな」

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ポリリン・コレクション 西順 @nisijun624

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