まるでそれは花のようで

紗沙神 祈來

まるでそれは花のようで

 荒れ果てた大地。飛び交うミサイル、弾丸。

 至る所に倒れる死屍累々とした人々。

 そこは戦場だった。

 一国の主を決める国内戦争。

 その戦場に駆り出されたのは大人だけではなく、学生も混じっていた。

 この場において大人も子供も関係ない。

 兵士たちは互いの主を勝たせるための兵士でしかない。言わば捨て駒。

 敵を殺しても賞賛されることもなく、死んだら誰に悲しまれるでもなくその場で朽ちる。

 それが常識だった。

 そんな中で1人の少年、ルキは戦っていた。

 その隣にいるのは女兵士、カグラ。

 彼らはいわゆる恋仲、というやつだった。

「ねぇ、ルキ。これ勝てるのかな?」

「勝つさ。絶対に。誰のためでもない、俺らのために」

 そう強く言い切った彼の表情はいつもより強ばっていた。

 無理もないだろう。ここは相手を無惨に、無情に殺し、殺される戦場。

 その環境の中で隣に愛を誓った相手がいるのだ。たとえ彼女が優秀だとしても心配になる。

「いい、どんなに勝つって言っても絶対に無理はしないこと。貴方は、私が守る」

「そりゃこっちもさ。お前は俺が守る」

「ふふ。約束ね」

「ああ。絶対だ」

 こうして2人は戦場を駆ける。

 抜群のコンビネーションだった。

 迫り来る敵を次々に蹴散らしていく。

 見事な銃の扱い。

 まるで魅了されるくらいに洗練され、美しくなっている。

 その弾丸に撃ち抜かれ、血飛沫が飛び散る。

 辺りの茶色かった地面はみるみるうちに赤く染まっていく。

「はぁはぁ.....。結構殺した、か」

「そう、だね。この辺にはも.....」

 それを言い切る前に、バンッ、という銃声と共に彼女が倒れた。

「おい!?カグラ!?しっかりしろ!」

 背中を撃たれている。

 相手は恐らくスナイパー。

 そうなると銃も強力であるはずだ。

 と、いつもなら考えることができた。

 しかし、今のルキにそんな頭は無かった。

「カグラ!?大丈夫か!?」

「ん.....。ルキ、うるさいよ。大丈夫、だから」

「死ぬなよ。絶対に。お前をここで死なせるわけに.....は!?」

 声が張る。理由は単純明快。彼も撃たれたのだ。

 今の彼には考える力が欠乏していた。

 もちろん、注意力も。

「ルキ.....あなたバカ、なの?」

「そんなの、知るかよ.....。俺は死んでも、お前を守る.....」

 そこには確実で、揺るがない意思があった。

 カグラに対する愛。それが今、彼の唯一の原動力となっていた。

 しかし、ここは戦場。そんなものは塵に過ぎず、無駄でしかない。

 遠くで耳を貫くような轟音がする。

「まさか、核弾頭.....?」

 そうカグラが呟く。

 これが相手の奥の手だと、彼らは知っている。

 だから――

「.....ルキ、私たち、ここまでみたいね」

「なんでだよ!?俺はともかく、お前は逃げれるだろ!?」

 そう、カグラが撃たれたのは背中。

 しかし、ルキが撃たれたのは脚なのだ。

「何言ってんのよ。ルキを置いて逃げるなんて、私にはできない」

「クソっ.....!」

 グシャ、とその場で砂をにぎりしめる。

「ねぇ、ルキ」

「.....なんだよ」

「今までありがとうね。ずっと、ずっと楽しかった。ルキと一緒になら何をしても楽しかったわ」

「やめろ。なんでそんな最後みたいに.....」

「ほんとうに、感謝してる。ルキと一緒にいれて、結婚まで誓ってさ」

 彼女は彼の声を遮って続ける。

「幸せだったなぁ。絶対に、絶対忘れないよ」

「ふざけんなよ!まだ、まだ助かる方法はっ.....!」

 そういった時、彼の頬に彼女の手が触れた。

「ねぇ、あなたはどうだった?私と一緒で、楽しかった?」

「.....っ!」

 その声に息を飲む。

 そして悟る。彼女は、本気なんだと。

「俺は、楽しかった。お前とすることならなんでも.....」

「うん.....」

「勉強も、授業も、訓練も。お前が居たから、カグラがいたから辛いことも乗り越えられた」

「うん.....」

 彼は静かに語り、彼女はそれに応じるように短く、微笑みながら返す。

「だから、だからっ...!」

 そして。

「一緒にいてくれてありがとう、カグラ.....」

 彼の顔から、涙が溢れる。

「もう、なんであなたが先に泣くの。私が、我慢した意味.....無いじゃない.....」

 それにつられたかのように、彼女も涙を溢れさせる。

「結局、約束守れなかったね。私はあなたを守れなかった」

「ああ、そうだな。俺もお前を守れなかった」

 2人は確認するように言い合う。

 約束を破ったはずなのに、その顔は笑っていた。

 今の彼らを例えるなら戦場に咲く唯一の花と言ったところだろうか。

 それほどまでに2人の周りは幸せに包まれ、まるで光り輝いているようだ。

「私たち、幸せだったかな」

 最後に確認するようにカグラが言う。

「もちろん。世界で1番、幸せだったさ.....」

「うん、そうだね」

 そして――

 彼らは眩い光に包まれ、散っていった。

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