第17話 陛下のお誕生日ですわ!


 ——……一週間後。


「まあ、陛下のお誕生祭に着るドレスですか!」

「ええ、どうかしら?」

「お二人とも素敵ですわ!」


 本日はお城に里帰り中です。

 実家があるのにお城に里帰り……でもわたくしの中ではこんな感じなんですわよねぇ。

 まあ、それはそうと、陛下のお誕生日……誕生祭が明後日に控えております。

 多くの国の王侯貴族が招かれ、お城で大々的なパーティーが行われるわけでして!

 本日、王妃であるエリザベス様と側室であるジーン様は、明後日のためにドレスの試着をしておいでですわ。

 お二人ともとてもゴージャスで、しかしまったく『着られてる』感がなく……ええ、まさに着こなしておいでですわ!


「クリスティアお嬢様」

「あ、そうでしたわ。あの、あの、エリザベス様とジーン様にご相談したい事がありますの……」

「まあ、なあに? なんでも相談して?」

「珍しいわね、あなたがそんなに神妙な面持ちで……。そんな重大な事ならちゃんと相談なさい」

「ありがとうございます、実は……」


 ルイナが二着のドレスを持ってくる。

 それに王妃お二人は目を丸くした。

 ええ、そうなのです……。


「ミリアムからはピンクのドレス、アークからは青いドレスを頂きましたの……。どちらを着ていけば良いのか分かりません……」

「「あら……」」


 一応二人の婚約者という事になっておりますので!

 どちらか片方だけというのは、さすがに……!

 かといって両方着る事は出来ません。

 当日はのちの王太子殿下の婚約者として、パーティーが終わるまで化粧直しくらいしか出来ないでしょう。

 ええ、パーティーとは政務です。

 王太子の座は卒業まで定まりませんが、わたくしの場合は二人しかいない両王子の婚約者なので……。

 ああ、お母様に強要され続けた耐久お茶会と耐久夜会の悪夢が蘇りそうですわ。

 でも、これもいずれ王妃となる者の務め。

 なにより、殿下たちのお役に立ちたい。

 でも……実はもう一つ相談したい事がありますの。


「それから、パーティー中になにも食べられないとなると……わたくし、お腹が鳴り響いてしまいそうで不安で不安で!」

「「あ、ああ……」」


 耐えられるのでしょうか? わたくしが。

 数時間のパーティー、立ちっぱなしで無限とも思えるご挨拶地獄。

 脳のカロリーを普段使わない隅々まで酷使して、どこどこの国の誰々様をひたすら覚えてあれそれ考えなければならない……それが政務パーティー

 そんな体力的にも脳みそカロリー的にもお腹の空く状況でわたくしのお腹は空腹を訴える事なく大人しくしていてくださるのでしょうか!?

 不安です! 無理な気がして仕方がございません! イケる気がしないのです! まして、ドレスですし!

 なにも食べずに数時間なんて無理です〜!


「あら、それならいい考えがあるわよ」

「え! 本当ですかエリザ様!」

「ええ、当日はこうしたらいいわ——……」


 と、エリザ様が提案した計画は……ふむふむ、なるほど!

 それならすべてうまくいきそうですわ!


「それと、例の件もロンディウヘッド家の方々がいらしたら片付けてしまいますわよ」

「あ、はい。あ、そうでしたわ。その時にお姉様の件もお力添え頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

「ああ、前に言っていた件ね。もちろん構わないわ〜」

「ええ、メアリ様の件はアークから全部わたくしたちにも伝えてもらっていますから。スパーンと綺麗にやっておしまいなさい」

「ありがとうございます!」


 では、当日にすべて片付けてしまいましょう。

 エリザ様の案ならば、問題なさそうです。

 順序立てて綺麗にあらゆる方面を片付けてしまえるなんて、さすが王妃様方ですわ。

 わたくしもお二人のように立派に物事を片付けられるようになりたいものです!


「では次の問題は装飾品ね」

「え?」

「そうね、着替えて両方着るなら髪飾りやネックレスも両方に合うものを選ばなければ」

「え」

「今日はそれを選びましょうか。特に靴は難しいから、靴だけは両方に添えて持っておいた方がいいかもしれませんわね」

「そうね、ジーン。わたくしも賛成」

「えっ」


 にこり。

 お二人から微笑まれて、背中がぞわりとしました。

 あ、これは……結局着せ替え人形になって地獄を見るアレ的な……?


「試着室へ行きましょうね、クリスティア」

「さあ、これも次期王妃としての仕事ですわよ!」

「ふ、ふぁーい……」


 ***


 二日後。

 陛下のお誕生日です!

 実は昼からパーティーが始まるので、朝に家族だけで陛下の誕生日パーティープチ! を開催しておりました。

 そして光栄な事に、わたくしもその朝食兼誕生日パーティープチに呼んで頂けております。

 今年で五年目ですわ。


「陛下、お誕生日おめでとうございます!」

「おお、クリスティア。ありがとう」


 この国の国王陛下、ライオス様。

 ライオス様は基本的に「現行制度に捉われず、より幅広い考え方や新しいやり方を模索して今までにない新しい国作り」を掲げておられる。

 その考え方は「世襲制」もなくてもよくない? という貴族から反発を受けそうなものから「国王の座も優秀な奴がやればいいと思うから、別に世襲制じゃなくてもよくない?」という貴族が大喜びしそうなものまで様々。

 わたくしのお父様は保守派……まあ、これまで同様のお堅い縦社会サイコー! みたいなタイプなわけなのですが、陛下のこの、「国王の座も優秀な奴がやればいいと思うから、別に世襲制じゃなくてもよくない?」だけは超絶大賛成……「自分がやります喜んで!」というアレな方なのでわたくしをミリアムたちの婚約者にさせようと凄かったわけですね。

 もちろん現行制度を変えるのはとても難しい。

 保守派の中でも、父のような『王座世襲制反対派』と『王座世襲制推奨派』に分かれている始末ですから。

 ちなみにわたくしは『推奨派』ですわ。

 ミリアムたちの婚約者なので推し推しですわ。

 父だって、自分が本当に国王になれるなんて思ってませんでしょうし。


「そういえば今夜のパーティーでクリスティアがなんぞ余興をやってくれると聞いたぞ」

「はい! 最近学園で流行っております『大食い勝負』をご覧に入れたいと思いますわ」

((別に流行ってはいないんだけどね……))

「おお! それは面白いものが流行っておるのだかな! しかもそなたがやるのか……実に興味深い。いつも思うがそなたの細身の一体どこに、その量が入るのであろうなぁ?」

((本当になぁ……))

「わたくしにも分かりません!」

「ははは! そうだなぁ」


 エリザ様とジーン様も「ほほほ」と上品に笑う。

 ミリアムとアークもニコニコしていて、やっぱり陛下がご一緒の朝ご飯は楽しいですわね。

 それにやっぱりみんなで食べるご飯はとても美味しいです!


「では、ドレス楽しみにしていますね」

「最初は私が贈ったドレスを着てくれるんだろう?」

「はい! わたくしも両方着られそうで嬉しいです!」


 食後、ミリアムとアークがお部屋まで送ってくださいます。

 一昨日と昨日散々試着してチェックはしましたが、やはり本番当日はドキドキしてしまいますわね。


「ああ、早くたくさん食べたいですわ……今日のお夕飯は照り焼きステーキが出るのですわよね……」

「お、お嬢様……まずはお着替えを」

「はぁい……」


 いざ戦闘服にお着替えですわ。

 コルセットを着けて、ドレスを纏い、お化粧をして……。


「メアリ様は決闘を申し込んでくださるのでしょうか? 陛下の前でお断りは出来ないとは、思いますけれど……」

「お姉様にとっても旨味はあると思いますわよ」


 ……少なくとも今の旦那様との事で悩む必要はなくなるはずです。

 髪を整えてもらい、鏡を向き直る。

 サイドに結い上げられたお団子から、残りの髪が下されて肩に垂れた髪型。

 胸の開いたAラインのピンクのドレスは、フリルが斜めにつけられてボリュームがある。

 ヴィヴィズ王国はほんのりと前世でいうアラブっぽいところが入っているから、他国の方が訪れるような公の場では、婚約の決まっている未婚の女性は肌を全て隠さなければならないのです。

 なので、開いた胸の部分より上にはボレロを纏い、頭には薄いヴェールを被ります。

 手袋をはめて、いざ〜。


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