第四幕

吸血鬼やダンピールが人間社会で生きる上で必要な欺瞞工作

普通の人間の中学生にとって二万円はすごく大きな金額かもしれないけれど、自身のサイトで月に数万円の収入を得てる安和アンナにしてみれば、たぶん、二千円くらいの感覚だろうな。


しかも彼女は、その収入を毎月使い切るわけじゃなく、自分の感性に刺さるものを見付けた時に使うから、今の時点で数十万円の貯金もある。


サイトの収入が振り込まれる口座の名義は、アオだけどね。


そこから今度はセルゲイが持っている<安和用の口座>に振り込み、<デビットカード>という形で現在は使ってるんだ。なのでカードの名義は、当然、セルゲイになってる。となれば、店頭でデビットカードを使うのはセルゲイだけど、お金自体は安和のそれということだ。


僕と悠里ユーリの場合も、同じ方式を使ってる。何しろ、名目上は<セルゲイの子>ということになってるから。もっともこちらは、僕の口座からセルゲイ名義の口座に入金した中からって形だ。僕自身、株資産の運用益を管理するための口座を持ってるし。


日本国内では、電子マネーや、アオが安和用の口座から下ろした現金を使うことが多いけどね。あと、通販会社のポイントを購入してそれで支払うことも多い。


いずれも、


<吸血鬼やダンピールが人間社会で生きる上で必要な欺瞞工作>


だし、人間の法律に触れるケースもあるだろうけど、アオもその辺りは、吸血鬼やダンピールと家族になる時点で覚悟の上だ。


だからアオは、


『法律を守らないこと』自体を責めたりはしないんだ。あくまで、


『自分は完璧に法律を守っているわけじゃないのに、他人の些細な法律違反をことさらに責め立てる』


のは、筋が通らないんじゃないのかな? と考えているだけで。加えて、


『だからこそ子供達に対して尊大な態度は取れない』


というだけで。


その上で、もし、自身の不法行為を咎められたら、それについては素直に認める覚悟も持ってる。


もっとも、そういう部分については、アオに累が及ばないように、アオとセルゲイの繋がりの部分にはなんら不審な点がないようにはしているけどね。セルゲイの口座に振り込む際の名目は、


<生物学者のセルゲイに対する監修料>


になってるし。そう、


『アオの作品で生物の描写が出てくる際にセルゲイに監修をお願いしている』


という形になっているんだ。


実際、必要となったらセルゲイに話を聞いているのも事実。その上で、セルゲイは、<雑収入>として申告もしてる。


日本では、そういう場合、


『友達だから。ということで無料で協力してもらうのは当然』


という感覚が強いらしいけど、海外だと、その辺りもシビアだったりするのも珍しくないから、不自然じゃないんだよ。


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