ミラノ・マルペンサ空港

そんなこともありつつ、搭乗手続きを済ませ、いよいよミラノに向けて出発。


と思ったら、


『当機はこれより、機体の再チェックのため出発が遅れます。ご容赦ください』


的なアナウンスがあった。何があったのかと耳を澄ますと、


「工具の確認くらいしろ! 馬鹿野郎が!!」


と怒鳴る係員の声が聞こえてきた。どうやら、フライト前の点検に使った工具を置き忘れてたのを、出発直前になって気付いたらしい。こういうことも別に珍しくもないんだけど、人間だと不安に感じるだろうな。


『大丈夫なんだろうか?』


って。


正直、僕達吸血鬼やダンピールは、航空機事故程度では死ぬことはまずないから、そんなに恐れることもない。だけど人間の場合は、墜落事故だとほぼほぼ助からないから、不安になるのも当然だと思う。


もっとも、墜落事故に巻き込まれるよりも自動車事故に遭う確率の方が圧倒的に高いけどね。


ただ、『墜落事故だとほぼほぼ助からない』というのはやっぱり心理的に厳しいかな。


そうして、予定時刻より三十分遅れで飛び立ち、その日のうちにミラノのマルペンサ空港に無事到着した。


だけど、到着早々、またも置き引きに出迎えられることに。


「私がやってみる…!」


安和アンナ魅了チャームを使ってやめさせようとするけど、上手くいかなかった。


すると、逃げようとした置き引きの足に悠里ユーリが自分の足を引っかけて転倒させる。そこに安和が飛びついて、


「ドロボーッ!!」


って大声で叫んだ。


『やれやれ……』


僕も内心ではそう思いつつ、一緒に置き引き犯にしがみついて逃走を阻止、そこに警官が駆け付けて、置き引き犯は御用となった。


ただそこで僕が殴られたことで騒ぎが大きくなり、救急車まで呼ばれて、警察で事情を聴かれる羽目に。


あの程度殴られただけじゃ僕は怪我もしないしそういう部分では別にいいんだけど、こういうことになるとそれだけ時間をロスするから、エセンボーア国際空港ではそもそも手を出させなかったんだ。出発前だったからというのもあるし。


だけどこちらではもう、そこまで時間を気にする必要もないわけで。


救急搬送された病院では、


<全治一週間の打撲>


という、名目上だけの診断をもらい、めでたくあの置き引き犯は、ただの<窃盗未遂>から<強盗未遂&強盗傷害>にランクアップした。前科があれば確実に刑務所行きだね。置き引きするような人間が優秀な弁護士を雇えるほど経済的に余裕があるとも思えないし。


ただ、僕達が<外国人>だったことで、警察の対応は、若干、冷ややかだったかな。


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