次元の違う強さを得る

ダンピールが実は純粋な吸血鬼と同じなのに、環境によっては激しく吸血鬼を憎む存在になってしまうのと、人間が眷属化することで変わってしまうのとは、基本的には同じことだと思う。


『外部からの入力によって後天的に性質が変化する』


という意味ではね。


本来は純粋な吸血鬼と変わらないのに、虐げられることによって<強い憎しみ>を植え付けられるダンピール。


本来は人間だったのに、眷属化することで人間では有り得ない不死性と超常の能力を得ることで感性を作り上げていた大前提が変わってしまった眷属。


『ダンピールは生まれた時から吸血鬼を激しく憎んでいる』


というのはただの迷信だったけど、眷属が、人間だった時とは変わってしまうのは、残念ながら事実なんだ。記憶は引き継がれるから<想い>も引き継がれるはずなんだけど、人間だった時にはできなかったことができることで、決して勝てなかった相手に勝てるようになることで、<弱者>が<強者>になってしまうんだ。


人間のままでもあるよね? <周囲から虐げられる弱者>だった人間が、<強者の立場>を得ることで強者として振る舞うようになるということが。


学校で、生徒が、教師を罵ったり、時には暴力までふるったりということが。


これは、かつては教師が<強者>であり、生徒は<弱者>だったものが、法律や考え方の変化によって生徒の方が手厚く保護されることで<強者の立場>を得、逆に教師の方は、<お金を貰ってる立場>、つまり生徒側は<お客>で、『お客様は神様です』という考えの下で<弱い立場>にされ、それまで自分達を虐げてきた相手を逆に虐げるようになった事例だよね。


それ以外にも、弱者が<強者の立場>を得ることで横暴に振る舞うようになった事例は、いくつもあるよね。


『眷属化する』というのは、ただ『強者の立場を得る』だけじゃなく、能力そのものが人間を圧倒するようになるんだ。腕力では人間は決して勝てない。それどころか、ナイフや拳銃を使っても力の差は逆転しない。次元の違う強さを得る。


この事実に影響されない人間は、本当にごく一握りの例外的な存在なんだ。


それこそ、


『物語の主人公として抜擢される』


くらいのね。<特別な存在>なんだよ。


アオは、自分がそんな特別な存在であるとは思わないから、眷属になることに踏み切れない。僕や家族や親しい人への気持ちが変わってしまうことを望まないから、人間として僕や家族を愛することを選んだ。


そして僕は、そんなアオを愛してる。


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