秋生の日常 その16
逆に、自分を見下したり貶したり蔑んだりする相手には、そうは思えないだけである。
そうして秋生と美織は、家を出て学校に向かって歩き出した。美織の自転車は、秋生の家に置いていく。どうせ帰りも秋生の家まで一緒なのだから。
歩きながら美織は言う。
「私、秋生くんのことが好き。秋生くんとずっと一緒にいたい……」
実はそれは、こうして一緒に登校する時にはほぼ毎回口にする言葉だった。
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
最初はどう応えていいのか分からずに戸惑ったりもしたものの、秋生ももう心得たものだった。それは彼女にとっては<ルーチンワーク>であることを。
本心からの言葉ではあるものの、ある意味では<挨拶>のようなものでもある。
そこで迷惑だと考えて雑だったり乱暴だったりする対応をすると彼女はパニックを起こしてしまうだろう。
とは言え、<普通>とは確かに違っているかもしれないものの、実は要領さえ掴めばパターン通りの対応をするだけで美織はとても穏やかでいてくれる。そのパターンを掴めていないと精神的に不安定になったりもするが、実際には<気まぐれ>や<我儘>とは対極にいるのだと、分かる者には分かる。
要領さえ掴んでしまえばすごく楽なのだ。
しかし、
『何より自分が優先されたい』
と考える者にとっては彼女はまさに理解不能な<狂人>にも見えるかもしれない。彼女の事情になど合わせたくないだろうから。
けれど、さくらやアオやミハエルに受け止めてもらえてきた秋生にとっては、それ以外の他人相手に優先順位を争う理由がまったくないので、気にならない。
そして秋生が穏やかに接してくれるから美織も穏やかでいられる。
人間同士の関係とはそういうものだろう。攻撃的に接すれば相手も攻撃的になる。
ただ、こちらから柔和に接しても相手もすぐに柔和な対応をしてくれるとは限らないのも事実。それは結局、攻撃的に他人と接する人間が多いから、すぐには信用できないからではないだろうか。今は柔和でも、ちょっとしたことで攻撃的になるかもしない。だから油断できない。
いかに攻撃的な人間が多いかということがその点からも分かるだろう。
こちらはただただ穏やかでいたいだけなのを理解してもらうのには時間が掛かるから、こちらが柔和に接しようとしてもそのまま柔和な態度を返してもらえないことが多いのだと思われる。
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