ミハエルの日常 その7
「私は、みんなに何かあったらきっと悲しくて頭がおかしくなっちゃうよ。だからそんなことしてほしくない……」
椿と悠里と安和を抱き寄せながらアオが言うと、子供達は、
「私はそんなことしないよ」
「するわけないよね」
「しないしない。バカバカしい」
と返してくれる。
だからこそ分かる。あの悪ふざけしていた二人は、家でこんな風にしてもらえていないのだということが。こんな風にしてほしいと思えないような関係性だということが。
親がもし抱き寄せようとしても嫌がるか、たとえ抱き寄せられてくれても腹の中で『ウゼえ…』と舌を出しているかもしれない。
そういう関係性が容易に想像できてしまった。
アオは言う。
「子供にとって親は、自分の生命線なんだよ。親に見捨てられたら命も危ないんだ。だから本当なら、子供は親に縋りつこうとするはずなんだ……
なのにそれをしないってことは、子供にとってそれをしたくないような親だっていうことだよ。
私は、椿や悠里や安和にとってそういう親でいたくない……」
三人をぎゅっと抱き締めると、三人もアオにしっかりと抱き付いてくれた。
「ママ、大好き……だからママを悲しませるようなことはしたくない……」
椿が言うと、
「僕もだよ……」
「私も……」
悠里と安和が続いた。
さらに、
「パパも大好き……」
アオに抱き付いていた自分達を嬉しそうに微笑みながら見ていたミハエルに、
「僕も…」
「私も…!」
子供達の気持ちに、ミハエルも癒される。いくら生物として圧倒的に強靭な吸血鬼であっても、精神的に疲れることはある。そういう時に労わってもらえるとやはり嬉しい。
ミハエルとアオは、お互いに、<人間>と<吸血鬼>という種族の違いさえ容認し、受け止め、種族の違いから来る様々な不都合を理解しているからこそこの関係が築けている。
もっとも、それは、こういう関係を築くための初歩の初歩、本当にただの<入り口>に過ぎず、そこから先にも様々な<衝突>があって、それを一つ一つ乗り越えてきたからこそ今があるのだけれど。
結婚するだけなら、相手の上辺だけを、一面だけを、自分に都合のいい部分だけを見て決めてしまえばいいかもしれない。
一方で、相手の裏も表も知ったとしても、お互いに<完璧な存在>ではない以上、すれ違いや衝突が生じることはある。むしろ、何一つすれ違いや衝突が起こることがないなんていう<ご都合主義>な展開は、人生においてはまずない。
そういう不都合が生じた時にこそ、相手を敬い尊重し、どうやってそれを乗り越えていくかを共に考えることができることができて初めて、長く平穏を保つことができるのだろう。
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