秋生の日常 その1

月城つきしろ秋生あきおは、公立高校に通うごく普通の男子高校生である。


と言っても、基本的にはあまり積極的に前に出るタイプではないので、世間的に見ればいわゆる<陰キャ>寄りと言えるだろうか。


けれど彼は、そういう、


<他人から見た印象>


というものを気にするタイプでもなかった。そんなことを気にしなくても十分に満たされていた。


しかも、意図して身嗜みを整えなくても、その整った顔立ちやしっかりした体幹がもたらす佇まいは、隠しきれない<魅力>として伝わる者には伝わっていた。


だから……


「月城くん。ちょっと手伝ってくれないかな」


放課後。授業を終えて家に帰る準備をしていた彼にそう声を掛けてきた女子生徒がいた。


肩の辺りで切り揃えられた髪は、明らかに美容室などでセットされたものじゃなく、格安理容室などでカットされただけで後は毎日、自分でブラシを掛けているだけというのが分かる見た目だった。


つまり、


<垢抜けないタイプ>


ということだ。


吉祥きっしょうさん? ちょっと待ってて」


秋生は<吉祥>と呼んだ女子生徒の姿を確認してそう答えた。


するとその脇から、


「あ~! ずるい! 麗美阿れみあっち! 今日は私が<正妻>の日だよ!!」


と抗議の声を上げた者がいた。さらりとしたやや明るめの色合いの髪をいわゆる<サイドテール>にまとめ、明らかに自分を演出するためのメイクが施された華やかな顔立ちの、でもパッと見は小学生くらいにも思える体格をした女子生徒が、やや芝居がかった身振りで詰め寄ってくる。


汐見しおみさん……」


汐見しおみ>と呼んだその女子生徒の剣幕に、吉祥という女子生徒は困ったような表情になる。そこへさらに、


「そうだよ、麗美阿れみあ。それが私達が決めたルールじゃん。ローテーションは守ってくれなきゃ」


小柄な汐見しおみとは正反対に、間違いなく秋生より背が高い、しかも顔だけを見ていると、潤んだような瞳にぽってりとした柔らかそうな唇の、目立ったメイクはされていないようにも見えるにも拘らず、とても生徒とは思えない色香を放ちながらも吉祥や汐見しおみと同じ制服に身を包んでいることから確かに生徒なのだろうというのが分かる女子生徒も近付いてきた。


「そうそう! 美織みおりの言うとおり!」


美織みおり>と呼ばれた女子生徒の言葉に、汐見しおみはさらに芝居がかった様子で腕を組んで胸を張り、「ふんす! ふんす!」と鼻息荒く高らかに告げた。


彼女達の名は、それぞれ、


吉祥きっしょう麗美阿れみあ


汐見しおみ美登菜みとな


市川いちかわ美織みおり


秋生に好意を抱く女子生徒らで結成された、


月城つきしろハーレム>


のメンバーなのであった。


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