恵莉花の日常 その1
成績は<上の中>と言ったところだろうか。決してトップクラスではないものの、一学年二百人ほどの上位二十位以内には安定して入っている。
また、顔の造形はよく見ると整っていつつ、それでいて、いわゆる<今時の女子高生>なら当たり前と言われるかもしれない眉毛を整えたり髪のセットに気を遣ったりはしない。
加えて、制服の着こなしも、標準服に特に手を加えるわけでもなくそのまま着ているので、華やかさも派手さもない。
つまり、俗に言われる、
『垢抜けない』
タイプだった。
口さがない者達は彼女のことを、
<イモ女>
<ダサ女>
<陰キャ>
などと陰口を叩いたりもしている。
けれど彼女は、そういう風評などまるで意に介していなかった。小学校の頃には多少気にしたこともあったものの、今では完全に右から左だ。
なぜなら、そんなものを気にしなければいけない理由がなかったから。
自分にとってどうでもいい他人の評価など、何の価値もない。
けれど、彼女は、分かる人間には分かる、不思議な気配を持った生徒でもあった。それを端的に表すと、
『気高い』
と言った感じだろうか。
他人に迎合せず、他人に惑わされず、決して目立つわけではないのに、何処か存在感もある。
いつもは静かに植物に関する本を読んでいることが多かった彼女は、友人も必ずしも多いように見えないのに、クラスでもそれほど他の生徒と交流を行っているわけでもなさそうなのに、孤立している印象はない。
ちなみに恵莉花は、園芸部に所属していた。
部員数は五人と、部としての存続が認められる『部員数四人』の規定ギリギリの弱小部である。
とは言え、その園芸部においても彼女は一人でいることが多かった。
なにしろ彼女以外の部員は全員、園芸の中でもあくまで<趣味としてのガーデニング>に特化した分野に関心を抱いていて、ある意味では<おしゃれ>やそれに類するものとして嗜んでいて、それに対して恵莉花は、学問としての園芸(horticulture)を求めていた。
なので、活動の方向性が根本的に違っているのである。
だから会話も噛み合わないので、結果として一人で活動することが多い。
他の部員達は、学校を花で飾ることは進んで行うものの、それ以外の、目立たない、華やかさがない、パッとしない草木に関しては二の次三の次なので、結果として恵莉花がそれを担当することになる。
『フジバカマ……今年も咲いたんだ……』
学校の庭園。鯉が飼われている池のほとりの手入れをしながら、そこに咲いた、多くの生徒からは『ただの雑草』と思われている花を愛おしそうに見詰めながら、恵莉花は思ったのだった。
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