私の胎から出てきたくせに
翌日も、昆虫の観察を続ける
アオは言う。
「それでさ~、昨日、買い物行ってる時にオバサンが井戸端会議しててね、そこで自分の子供が生意気な口をきくみたいなことで愚痴ってたんだよ。
しかも、
『私の
とか言っててね。
それを聞いた時、私は悲しくなったんだ。
だって私も母親だし、
でも、私は、『生んでやった』とは思ってない。なにしろ安和も悠里も、私に、
『お願いですから生んでください』
とは言ってないよね。だから二人を生んだのは完全に私の勝手なんだよ。どんなに言い訳したって詭弁並べたって、責任は百パーセント私にある。それを考えたら、
『私の
なんてとても言えない。
それを言ってた人はついそう言いたくなるくらい生意気なことを言われたのかもしれないけど、そういう『ムカつく言い方』ってほとんどは親のそれの真似なんだよ。
安和が時々、きつい言い方をしてしまうのも、結局、私の言ってることの真似なんだ。
それが分かってるから、私は、安和が時々、きつい言い方をしててもそれ自体を責めることはできない。
ただ、
『他人に向かってそんな言い方すると、相手を怒らせてメンドクサイことに巻き込まれるからね』
とは、人生の先輩として教えておいてあげる。
私だって、さくらの前以外では言わないようにしてるよ。
さくらは私がなんでそういう風に言うのかその理由も察してくれるけど、さくら以外の人はそうじゃない。
だからさ、安和も私達の前以外ではなるべくそういう言い方しないように心掛けてくれると嬉しい」
アオのその言葉に、安和は、
「うん。分かってる。他の人に対してはなるべく言わないように気を付けるよ。
でも、つい、言っちゃうこともあるかもしれない。その時はごめん」
素直にそう応えた。
そんな<娘>に、アオは、顔は見えないけど微笑む。
「ありがとう。そんな風に思ってくれるだけでも嬉しい。
やっぱさ、人間に限らず<心>を持ってると、つい、ってことはあると思うんだ。そういう『つい』っていうことすら絶対に許さないっていうのは、いくら何でも無理がある。
もちろん、『つい』で許されないこともあるけどさ。
『つい、信号を見落として、赤信号で横断歩道に突っ込んで歩行者を撥ねちゃった』なんてのは『つい』じゃ許されないよ。自動車っていう、
<人を簡単に殺せる道具>
を使うっていうことがそもそも大変な責任を負うことなんだからさ。それで信号を見落とすような不注意な運転の仕方をしてること自体がもう『つい』じゃないよね。
そういうのもちゃんとわきまえてくれてたらいいよ」
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