この世のものとは思えない絶景

ギアナ高地へは、ボリスが任されている会社が管理する石油採掘プラントの宿舎から自動車で一時間ほどの距離だった。


となれば、荒地でなら下手な自動車よりも早く走れるセルゲイであればそれこそ一時間も掛からない。吸血鬼の体力の面から見ても散歩感覚で行ける距離である。


こうして悠里ユーリと一緒に昆虫の観察に出る。


ただこうなると面白くないのが安和アンナ、ということになるのがいつものパターンだけれど、今回は少し事情が違った。


というのも、目的地はかの有名な<ギアナ高地>。この世のものとは思えない絶景が見られる場所だ。


「そんなわけで、うちの会社のヘリで遊覧飛行なんてのはどうですか? さすがにギアナ高地そのものの上を飛ぶのはいろいろ煩いから手続きが必要で今すぐってわけにゃいかないが、逆に、あれは少し離れたところからの景色もとんでもなく絶景なんだよ」


そのボリスの申し出に、安和も、


「じゃあ、お言葉に甘えようかな…」


ということになった。


夜の間、昆虫の観察に出ていたセルゲイと悠里ユーリが夜明け前に帰ってきて、五人でヘリに乗り、飛び立つ。


そして空が白み始めたギアナ高地を見た安和と悠里が、


「うわあ……!」


と窓に張り付いて揃って声を上げた。


二人の視線の先には、白く輝く雲海の中に、それこそ<島>のごとく浮かび上がる特徴的な台地の姿。


まさしく、


<この世のものとは思えない絶景>


だった。


「……」


言葉も失って目の前の光景に見入る二人に、ボリスも満足そうに笑みを浮かべる。


その上で、


「まったく。地球ってのはホントにすごいところだよな。こんな景色が当たり前に見られるんだぜ? そんな地球の上で人間はやれイデオロギーだ価値観だとか言っていがみ合うんだ。


実にちっぽけだって思うよ。でもそれが人間なんだから、しょうがねえよな。


俺は、いいところも情けないところも含めて人間が好きだ。したり顔で『人間なんてクズだゴミだ』とか言ってる奴を見るとぶん殴ってやりたくなる。


けど、そんなことを言ってる奴もやっぱり人間なんだよな。そういうの全部ひっくるめて人間なんだ。セルゲイが好きだと言ってくれる人間なんだ。


昨日の強盗にしたって、セルゲイならあんなの一瞬でブチ殺せてしまえるはずだ。あいつらに銃で撃たれる覚悟があるかどうかなんて関係なくな。


だってそうだろう? セルゲイは吸血鬼なんだ。人間の価値観とか覚悟とか、そんなもん何の価値もない。だけどセルゲイは人間を殺さない。人間を好きでいてくれる。


だから俺も、セルゲイが好きでいてくれる人間を好きでいようと思ったんだ」


そう語るボリスに対して、セルゲイは、


「買いかぶりすぎだよ。ボリス。僕は君のような人もいるから人間を見限れないだけさ」


微笑わらったのだっだ。


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