ギアナ高地に向けて
ミハエルと
セルゲイは移動中の自動車の中で眠る。
その間の警戒はミハエルの担当だ。
「ははは、さすがにミハエルは俺より年上なだけあって心得たもんだな」
助手席で目を瞑って休むセルゲイの代わりに周囲への警戒を怠らないミハエルの様子をルームミラー越しに見たボリスが、感心したように声を上げた。
しかし同時に、
「けど、まだ先は長いぞ。あんまり気を張ってたら疲れるんじゃないのか?」
とも。
それは彼なりの気遣いだった。そして実際、ギアナ高地までの道のりは長く、道路も整備されたものばかりじゃなく、さらには元々は整備された道路だったものも十分なメンテナンスが行われていなかったり、内戦の際の戦闘などの影響で、真ん中に突然、大きな穴が姿を現したりと、日本などではなかなか見られない状態が散見され、迂闊にスピードも出せないような状態だった。
その所為もあり、ギアナ高地へ到着には、休憩なしでも十時間が必要だという話だった。
とは言え、体力や精神力での話であれば、吸血鬼であるミハエルにとっては十時間程度の自動車での移動、加えてその間の警戒などどうということもない。
ただ、悠里や安和にはさすがに少々厳しいだろう。
だから途中、何度も休憩する。
政情不安で、現在では戦闘こそは控えれられているものの事実上の内戦状態にある国とは言え、そこにも人の暮らしはあり、道路沿いには、ガソリンスタンドや商店、モーテルなども見られた。
それでも、全ての店舗などが必ず営業している保証もないので、ガソリンについては給油できるときに給油する。それに、ボリスが運転する自動車は、四代目ダッジ・ダートの2ドアクーペという、一九六〇年代後半から一九七〇年代にかけて生産された、今の感覚からすればほぼほぼクラシックカーに等しい、<古き良きアメ車>と言われるもので、馬力も大きいが、ガソリンをばら撒きながら走っているとも言われるほど燃費もアレな自動車だった。
ベネズエラは豊富な原油埋蔵量を誇る産油国でもあるので、ガソリン代は日本などと比べると圧倒的に安いものの、それでもうっかりするとガス欠に見舞われるのは変わらない。
かつては国を挙げて反米を唱えていたにも拘わらず走っている自動車はアメ車も決して珍しくないというのは、他の反米主義的な中南米の国々と共通する点でもあるだろう。
古いアメ車が多い反米主義国という点で有名なのはキューバだが、キューバはアメリカの実質的な植民地同然の時期があったので、当時に持ち込まれた自動車が今でも現役で使われているという背景があり、こちらはむしろ当然なのかもしれない。
ちなみにキューバの反米路線はかつてに比べると緩和されているので、今後は新しいアメ車も増えていくと見られているようだ。
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