仕事ぶり

ちなみにその絵本はセルゲイとの共著とされているものの、彼自身は表には出ない。さすがに吸血鬼である彼があまり目立ってしまってはいろいろと面倒なことになるからだ。


なので、生物学者としても実はそれほど著名なわけでもない。何か新発見をするというよりは、すでに他の研究者が発表した説を裏付けるような資料を編纂するのが主な活動内容だった。


彼は別に生物学者として評価されたいわけではなかった。彼が生物学者を志したのはあくまで、


<吸血鬼やダンピールは、人間と共存することが可能な地球上に存在する生物の一種>


であることを、同じ吸血鬼達に論理的に説明したいがために過ぎない。


それについては、こうしてミハエルとその子供達と共に行動することで十分に果たされている。


だからそれ以外のことは<余禄>に過ぎなかった。さほど重要なことじゃないのだ。


なにしろ彼は吸血鬼。人間のように裸で自然に放り出されたら生きていけないような脆弱な存在ではない。野生の獣と同じように自分の身一つで生き延びることもできてしまう。


対して人間は、衣・食・住のどれをとっても自分一人では確保すらままならないが故に他者の力を借りて得るしかなく、そのための対価として金銭が必要であり、それを得るために人間社会の中で働く必要がある。


つまり、吸血鬼が生きるためには金銭は必須ではないのだ。


故に吸血鬼の多くは金銭に対してあまり執着しない。人間の社会に溶け込んで生きるには『あった方が何かと便利』だから、それなりに稼ごうとはするだけである。


ミハエルについては、基本的に株資産の運用益が主な収入である。しかも、その気になれば世界中に広がった吸血鬼独自のネットワークを通じてインサイダー情報さえ手に入ることもあり、それを用いれば億を越える収入を得ることも造作もなかった。


そうなると人間のようにあくせく働く必要もない。必要な分を必要なだけ稼げれば後は適当にやってればいいだけだ。


とは言え、ミハエルやセルゲイの場合は、それではさすがに人間社会での暮らし方の点で悠里ユーリ安和アンナに手本を示すことにならないから、ミハエルは主に<主夫>の役目を果たし、セルゲイは<学者>としての姿を見せている形にはなっている。


ミハエルが主夫役をしているのは、これは当然、母親のアオがそういう方面を苦手としているからだった。


仕事に集中している時はそれが途切れると途端に効率が悪くなってしまう。そういう意味でも彼女には作家としての仕事に集中してもらった方が、仕事ぶりを見せる点の手本にもなるということなのだ。


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