それが僕の願いだ……
「あ~…何か違うんだよなぁ…もっとこう、もっと綺麗だったんだ。あぁ、もっと絵が上手くなりたいなぁ……」
自分が描いたスケッチを見ながら、
そんな悠里の頭を、ミハエルがそっと撫でた。
「何事も鍛錬、練習だよ。見たままを描くのに必要なのは技術だ。そして技術は反復練習でよってのみ磨かれる。技術の先に進むには今度はセンスが必要になってくるだろうけど、根気よく練習を続ければ、もっと上手くなれるよ」
見た目には十歳から十一歳くらいの<お兄ちゃん>が、三歳くらいの<弟>の頭を撫でてあげているという感じの微笑ましい光景だけれど、その口調は経験を積んだ者が持つ重みと深みを備えていた。それが悠里にも沁みこんでくる。
「うん…ありがとう、父さん……」
素直にそう言えるのは、何よりミハエルが悠里にとって信頼に値する父親だったからに他ならない。
そして信頼に値するのは、自分の存在を受け止めてくれているという実感が悠里にあったから。悠里にその実感を与えてくれる接し方を、ミハエルがしているから。
「悠里、君は僕にとっても自慢の息子だよ。君が僕とアオのところに来てくれたのが何よりの幸せだ。
この世界はとても大変で辛いことや苦しいこともたくさんある。けれど、僕はそれらを君や
それが僕の願いだ……」
悠里の小さな体を抱き寄せ、ミハエルが穏やかに語りかける。
「うん、ありがとう、父さん……」
そう応えた悠里は、さすがに今では少し気恥ずかしさもあるけれど、それでも彼にとってもそれは心地好いものだった。自分がここにいていいのだと素直に思えた。
だから思う。
『他人に攻撃的な人って、こんな風にしてもらえないんだろうな。もししてもらえてたとしても、きっと、安心できてないんだろうなって気がする……』
と。けれど悠里の場合は、ミハエルのことがそれだけ信頼できてるので、ミハエルが信頼に値する存在であることを実践して示してくれてるので、自分の中にある衝動に身を任せる必要がなかった。こちらに身を任せている方がずっと気持ちよかった。それでもう十分に満たされた。
これは、ミハエルだけができることじゃない。アオも同じことができるし、<もう一人の母親>とも言えるさくらにもできる。それどころか、
万が一ミハエルがいなくなるようなことがあっても、他にも何人も悠里のことを受け止めてくれる。
そして、いずれは
と同時に、悠里自身も
なにしろ、自分がしてもらったことを真似ればいいだけなのだから。
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