ミハエルがそう言うんなら……
「彼はセルゲイ。僕の親戚の一人で、生物学者なんだ」
「初めまして。とは言え、それぞれ生まれた時に何度か会ってるから正確には『初めまして』ではないけど。
とにかくよろしくね、悠里、安和、
まるでおとぎの国から出てきたみたいな眉目秀麗な白人青年のセルゲイは、満面の笑顔でそう言った。おそらく、ミハエルにぞっこんのアオでなければ魅了されてしまっていてもおかしくないだろう。
事実、安和はまだ四歳なのに、すっかりセルゲイに魅せられてしまったようだ。実際には椿が生まれる時に何度か会っているものの、さすがにその時はただ懐いていただけで、ここまでではなかった。
セルゲイが来ると、
「セルゲイ~♡」
鼻にかかった猫撫で声で彼の名を呼びながら、傍を離れようとしないくらいには。
この時にはまだ二歳だった椿も、割とすぐ懐いた。それはまあ、セルゲイがミハエルに似ていたからというのもあるかもしれないけれど。
そして悠里については、豊富な生き物の知識によって親しくなることができた。
ミハエルは言う。
「セルゲイの研究は、ほとんどがフィールドワークなんだ。実際にその生物に触れて生態を見る。だから常に世界中を飛び回っててね。そういう意味ではうってつけの人なんだよ」
さらに、
「加えて、セルゲイは実際に、子供を連れて行くには危険な場所に行くこともある。そういう意味で、子供を誰かに預けて研究に行くというのは決して不自然じゃない」
「それってつまり……?」
ミハエルの説明にピンと来たアオに、
「そう。僕と悠里と安和は、セルゲイの子供ということにしようと思う」
と告げる。
人間の感覚だととんでもないことのように思える提案だけど、吸血鬼が人間の社会に折り合いを付けて生きるためにはごく当たり前に行われることだった。
生まれてから三歳から五歳くらいになるまではむしろ人間よりも早いくらいなのに、それ以降はとにかく成長が遅いので、ひとつところに留まって普通に生活していると明らかにおかしいと思われるのだから。
なので、幼い頃は特に、完全に人里を遠く離れた原野で暮らすか、または転々と住居を変えつつ身分も偽ってというのが当然なのである。
これは決して人間を傷付けるために行うことじゃない。むしろ人間との衝突を避けるための<知恵>だと言える。
人間じゃない以上は、人間と同じにはできない。それを受け入れているからこそのものだった。
それに非常に長い寿命を持ち肉体的にも精神的にも圧倒的に強靭な吸血鬼にとっては、この程度のことは苦痛にならない。むしろ楽しむ者が多いと言う。
また、これによって見聞を広め知識を蓄える役にも立っているそうだ。
「ん~、まあ、ミハエルがそう言うんなら……」
こうして、最初は渋々ながらもアオも承諾してくれたのだった。
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