エルフの里編

プロローグ

 大学に全落ちした一九歳浪人生の俺、サイトウハヤトは一度死んで異世界へやってきた。

 そして、今は国を救ったお礼として家をもらってそこに住んでいる。

 あの日から、一週間経った。


「なあ。本当にこんなにたくさん食材っているの? 別に重いとかは問題ないんだけどさ。この量ってさすがにおかしくない?」


「なに寝言を言ってるなのですか。ハヤトさんにエストスさん、シアンちゃんにシヤクに私。五人分の食材を買わないといけないなのですから。ぐちぐち言ってないで運べなのです」


「いや、それで両手いっぱいの荷物ならいいけどさ。なんでリアカー使って一日分の食材運んでんの? 俺たち行商人でも始めるの?」


「まあ、シアンちゃんだけで十五人前くらい必要ですし、人数分しか食材を買わないで瞬く間にシアンちゃんが私たちの分まで食べて彼女以外全員夕食抜きだった魔の一日目を繰り返さないためには仕方のないことなのですよ」


「はあ。そうだよなぁ。なんであんな小さい体にこの量が詰め込まれるんだろうなぁ」


 俺は今、スタラトの町の商店街から大量の食事を買い込んで家へと帰っていく途中だった。なぜ大量なのかは、まあ、察してくれ。

 ボタンと横並びになりながら、俺たちは帰路を歩く。


「そういえば、今朝からハヤトさんの腰に何か格好いい装備が取り付けられてるなのですね。それはなんなのですか?」


 ボタンが指差したのは俺の腰にある鉄製の直方体だった。イメージ的にはゴリゴリのウエストポーチってところか。


「ああ。これは俺の命より大切な本が入ってるんだ。肌身離さず身につけてはおきたいけど、何かあったときに失くしたり破れたりしたら大変だからな」


 これには魔道書グリモワールが入っている。ちなみに、この鉄製ゴリゴリウエストポーチはエストスのスキルで作ってもらった。

 まあ、そのせいであのチビ勇者がまたエストスにモフモフと遊ばれたわけだがそれはまた別の話。

 俺の説明を聞いて、ボタンはうんうんと頷いていた。


「なるほどなるほど、つまり私からしたらシヤクがその鉄の箱に入ってるようなものなのですね」


「お? それはメルヘンなのかサイコホラーなのか区別つかなくて怖くね?」


 そんな事をいいながらも、俺は食材を積んだリアカーを引きながら帰路を歩く。


 色々なことがあったけど、なんだかんだでようやく生活が落ち着いてきた。

 ちなみに、家賃と土地代は必要なくて、インフラが整備されてないから水道代も電気代もない。風呂は町の大浴場で事足りるし、夜も月明かりで真っ暗ということではないから、何かに困ることはない。

 スマホがないのは痛いけど、ログインするだけのゲームともう連絡の取らなくなった昔の友達の連絡先ぐらいしかないから特に未練はなかった。


 金は最初にクエストで得た報酬金を元に、ギルドに行って魔物退治で少しずつ金を仕入れてあるって感じかな。

 あんまりやりすぎても他の冒険者の人だっているから仕事を奪うことになるし、他の収入源も欲しいなとは思ってる。


 まぁ、今のところは問題ないし、また何かあればエストスあたりに解決策を聞けばなんとかなるだろ。

 とりあえずは家に帰って腹を空かせた住人たちの腹を満たさなきゃいけない。

 と、そこへ。


「は、ハヤト! 大変だ!」


 俺たちの前に走ってきたのは、上下黒でダボダボの服を着た、褐色の肌と銀色のショートカットをした実年齢十八歳にして小学生にしか見えない合法ロリな魔王軍幹部、シアンだ。


「おう。どうした? 腹でも減ったのか? 今食べ物買ってきたところだからちょっと待っててな」


「違うんだ! えっと、なんだかよく分からないけど大変なんだ!」


「ほいほい。いつも通り大変なのね…………って、え? 大変なの⁉︎」


 いつも同じこと言ってるから違和感なかったけど、よく考えたら普通に大変な時に使うセリフじゃねぇか! なんだ、何が起こったんだ⁉︎


「こ、こっちだ、ハヤト!」


 走りだしたシアンを追っていくと、辿り着いたのは俺の住んでいる屋敷の前だった。


「ここだ!」


 シアンが指差した場所にいたのは、どっかの女王に初めて会った時と同じように布を上から被ってその場に倒れている小さな、女の子だろうか。うつ伏せでよくわからないが体のライン的には少女なのだろう。

 というか大丈夫か⁉︎ 普通にぶっ倒れてんじゃねぇか!


「お、おい! 大丈夫か⁉︎」


 俺たちの気配を感じたのか、倒れている少女はそのままの体勢で、



「我が貪欲なる器が、肥沃なる土壌にて熟成せし恵みを渇望している…………っ!」



「…………え?」


 俺が理解できずに間抜けな声を出すと、まるでテイク2を始めようとするかのようにまた同じように少女は口を開く。


「我が貪欲なる器が、肥沃なる土壌にて熟成せし恵みを――」


「いやいや。聞こえなかったわけじゃなくて、何言ってんのか分からないんだけど」


 言うと、少女はガバッと起き上がり俺を睨みつける。


「だから! お腹が減って死にそうだからご飯食べさせてってこと! 分かってよバカ!」


「……………………………………え?」

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