第31話 ヤヨイの強さは本物でした

「こんないい席を案内してもらえるんだな……」


ずっと選手控え室に留まっていた俺達に城の人が試合を間近で観れる座席付きの場所を用意してくれた。


これもヤヨイがヒノマルの姫だったお陰か。


肝心のヤヨイは次の試合がそろそろだから控え室に待機するといい、座席には来なかった。


「こ、こんな場所に平民の私がいてもいいのでしょうか……」


周りは貴族のだらけのこの席はナイナには荷が重いみたいだ。


「さっきの試合のブーイングは凄かったな」


ザルムントは勝つには勝ったけど、誰が見てもあんな勝ち方は剣士の戦いとしては納得がいかないだろう。


結構なんでもありなんだな、この大会……


「魔法を使うことに関しては過去にも議論があったんですけも、それを含めて強い剣士もいるんで今は魔法は禁止されていません」


「さっきのザルムントの戦い方もルール上は問題ないんだもんな……」


「一応そうなります」


ヤヨイが勝ち上がったら、あいつと戦うことになるかもしれないのか。


「あっいたいた、おーい、ロジカおにぃちゃーん!」


フランとセリルだ。

俺達の側までやってきた。


「どうやったここがわかったんだ?」


「お城の人が案内してくれたんだよ」


お城の人?


「さっき私がお願いしておいたんです、フランとセリルがいたらここに案内してもらえるようにって」


ナイナだったのか、そうじゃなきゃフラン達が貴族達の席に入ってこれないもんな。


「ねえねえ、ヤヨイおねえちゃん、お姫様だったんでしょ?」


セリルが目をキラキラさせている。

いつも仲良くしてるヤヨイがお姫様なんて知ったらそりゃ驚きだよな。


「驚きだよな、ヤヨイそんなこと一言も言わないから」


「お姫様なのに強くて優しくて、ヤヨイおねえちゃんすごいね!」


セリルはすごく嬉しそうだ。


「あっ、セリル、さっきソウルガンドの連中を見たんだ」


「えっ、お城に来てるんだ、珍しいね」


「いつもこの国の悪口を言ってるのにね」


セリルとフランはソウルガンドの連中が来てることにそんなに抵抗はないみたいだ。


「キエルっていう奴とザルムントっていうのは初めて見るやつだったな」


「「キエルさん!」」


フランとセリルは興奮していつもより声が上ずった。


「2人とも嬉しそうね、キエルさんは悪い人じゃなさそうだったけど」


フランがナイナに嬉しそうに答え出す。


「キエルさんはすごく優しくていい人なんだよ! しかも、ソウルガンドのリーダーなんだよ」


「あのキエルって奴がソウルガンドのトップだったのか……」


「じゃあ、ザルムントさんは知ってるの?」


「「うーん」」


フランとセリルが悩み出した。

ザルムントって奴のことは聞いたことがないのか、覚えてないようだ。


「あっ、ヤヨイが試合場に出てきましたよ」


ナイナがヤヨイを指差した。


他の観客達もヤヨイに気付いたのか、ざわつきだした。


見てた人達はヤヨイが姫さまだったって事情を知らないだろうから未だに貴族を倒したやばい奴って印象なんだろう。


「ナイナ、相手は知ってる奴か?」


ナイナはヤヨイの対戦相手を確認し、首をかしげる。


「名前までは覚えてないですけど、よく大会に出てる人だったとら思いますよ、そこまで弱い相手ではないはずです」


ある意味これが初戦みたいなもんか。


ファンファーレが鳴り響き。

ヤヨイの番がやってきた。


ヤヨイの実力って実際どれくらいのもんなんだろう。

モンスターで一番強かったのは、最初にあった時のオーガゴブリンか。


あのモンスターを瞬殺できるくらいなんだからCクラス以上の力を持ってるのは間違いないんだろうけど。


審判が手をあげる。


試合開始と同時に相手がヤヨイに突っ込んできた。


迎え撃つためヤヨイは剣を構える。


相手が間合いに入り、剣を振りかぶろうとした時相手は姿を消した。


「消えた!?」


突然姿を消した相手にも動じずにヤヨイは構えたままだ。


ヤヨイは突然上空に剣を一振りした。


その直後、空中から相手が腹を抑えながら、落下して、地面に倒れ込んだ。


腹部のプロテクターに傷が入っている、ヤヨイは何もないところに剣を振ったと思ったけど相手を捉えてたんだ。


審判が手をあげ、ファンファーレが鳴った。


文句なしの勝利だ、初めてヤヨイに対して歓声が上がった。


よかった、この歓声もちょっと安心したけど、ヤヨイの強さも本物みたいだ、どこまで通用するのかはわからないけど、十分戦っていけるレベルみたいだな。




その後も試合は淡々と進んでいき、ヤヨイは勝星を刻んで行った。


ヤヨイの活躍により貴族事件は徐々に上書きされていき、観客達は新星の女剣士ヤヨイに注目していった。


戦っていくごと相手は強くなっているみたいだけど、それをものともしないくらい、ヤヨイは強かった。

もしかして本当に優勝してしまうんじゃないか……



いつの間にかヤヨイが試合場に出てくると歓声が上がる様になってきた。


「すごい歓声ですね……ヤヨイ、いつの間にこんなに人気になったんでしょうか」


貴族席も含めて会場全体がヤヨイの応援を始めていた。



残る選手は後4人。


あっと言う間にこんな所まで来てしまった。


この中には

騎士団のエース、ディスティーとソウルガンドのザルムントも入っている。


「次はいよいよあのザルムントとですね……」


ザルムントはその後の試合も卑怯な手段を使い、試合を進めていき、毎回ブーイングが起こっていた。


「「おねぇちゃん、がんばれー!」」


こいつはいままでの相手通りにはいかないだろうな……



ファンファーレが聞こえてきた。

先に試合をしてるディスティーが決勝に決定したようだ。


ここで、ザルムントを倒しても、ディスティーか……



ヤヨイが試合場に姿を見せた。



いよいよザルムントとの戦いだ。

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