第30話 ソウルガンドには変わった人が多いみたいです
「なんでヤマトの刀がこんな所にあるんだ!?」
練劇会の優勝賞品がヤヨイには理解できないみたいで、怒りと困惑が混じった反応をソウルガンドの2人に見せた。
「そんな事を俺達に言われても知らんよ」
苛立っているヤヨイを見てヅィリィは嬉しそうにニヤつく。
「ヤマトの生死は俺達もわからない、刀がどういう経緯でここにあるのかわからないのも事実だ」
ヅィリィは複雑な表情で隣の優男を見る。
本当は嫌がらせしたいのに、素直にこの男が答えてしまうから思うようにいかなくて苛立っているようにも見える。
この2人噛み合ってないんだろうな……
「なんで、お前らがヤマトを知ってる?」
ヤヨイは苛立ちを抑えようとしながら、ソウルガンドの2人に話しかける。
「フフフ……そん、」
「ヤマトは一時期ソウルガンドに入っていた、知っていて当然だ」
ついに、優男がヅィリィの言葉を遮って話し出した……
「……」
ヅィリィは優男を「なんだこいつ」と言いたげな表情で見ている。
「とにかくだ!」
ヅィリィがハッキリと声を出した。
もう話すのを遮られないように優男の事を一度睨み、ヤヨイの方に顔を向けた。
「俺達が、貴様らに敢えて情報を与える義理はない」
「俺達の把握しているヤマトの状態はな……」
「やめろ!」
なんだこいつら漫才でもやってるのか……?
噛み合わない2人がだんだんシュールなやりとりに見えてきた……
「名刀オロチはソウルガンドが手に入れる、うちの剣士ザルムントに島国の姫ごときが勝てると思うなよ」
「ヅィリィ、この場でその発言はまずいだろ」
「うるさいキエル、俺に指図するな!」
ヅィリィは優男キエルに文句をいい、その場を去っていった。
前にクエストであった時はフラン達と一緒だったからかもう少し大人な感じがしたけど、今回はキエルって奴とギクシャクして、妙に大人気ない感じがするな……
とにかく、変な奴だし、関わりたくは無いんだけど。
優男のキエルはヅィリィがいなくなったことを確認して話しかけてきた。
「すまなかったな、ヅィリィは精神的に不安定な奴だから気を悪くさせてしまったことを謝罪させてくれ」
「えっ、ああいや、そういう奴もいると思うんで、大丈夫……」
意外だ……このキエルって奴もヅィリィと同じで嫌な奴かと思っていたら、なんか肩透かしを食らったような気分だ……
「フランとセリルは元気にしているか? ずっと心配だったんだ」
「ああ、おてんばだけど、2人とも元気にしてる」
「それならよかった、今日は来ているようなら顔くらい見てもいいか?」
……なんか調子狂うな、キエルは本当にすごくいい奴そうだ。 ソウルガンドにもこんな人間がいるのか。
フランとセリルの事を聞いた後、キエルは安心したようにヅィリィと同じ方向に移動しいなくなった。
「相変わらず変な連中だったな」
突然現れて嵐のように去っていったソウルガンドの2人対してヤヨイは溜め息を吐いた。
ソウルガンドなんかよりもヤヨイ的にはヤマトの事だよな。
あいつらヤマトはソウルガンドに所属してたって言ってたな、わからない事だらけだ……
「もっとヤマトの事を聴かなくてよかったのか?」
「もういい……どうせヅィリィに聴いても碌な返事は無いだろうし」
まぁ確かに……ただキエルなら教えてくれるかも知らないけど。
「それよりは今は確実にある、刀を手に入れる事だ」
「……そうだな」
前向きだな、さすがヤヨイだ。
「ところでナイナ、ヤヨイはこれからの試合出ることは出来るんだよな?」
「えっ、恐らくは……みなさんの慌てようを見るからには、あれでヤヨイを棄権させるとは思えないので……」
試合に出てるのはヤヨイだ、本当はもう帰りたい気分だけど、こうなったら優勝目指して応援してくしかないか!
「ザルムントさーん、次が試合になります、いらっしゃいませんかー?」
練劇会の運営者が人探しをしている、ザルムントってさっきヅィリィが言ってたあのギルドから参加する剣士か。
いくら探してもこの選手控えにはそいつは見つからなかった。
「ザルムントさーん、試合前に試合場に立ってないと失格になりますからね!」
運営者は姿の見えないザルムントに向けて、そういい探すのをやめた。
ザルムントって奴なんでいないんだ?
「これで失格なら笑えないですね……」
ナイナは周りを見渡すが、ザルムントと思わしき者は見当たらない。
ソウルガンドの奴ら、この練劇会のために来てるんだとしたらこんなことで失格になるのは笑えないよな……
試合場からファンファーレが聞こえてきた。
ってことはもうザルムントの出番だ、ヅィリィ達の姿は離れてて見えないけど、もしかしてあいつら今必死に探してるのか……?
選手控えから試合場を除いて見ると、ザルムントの相手の選手はすでに準備をして立っている。
本当にこれで失格になるのか……?
その時、試合場に魔方陣が浮き上がり、そこから人が現れた。
緑色の髪をして、長い前髪で目が見えないからあまり表情がわからない。
ソウルガンドの黒服を着ているから、こいつが、ザルムントって奴で間違いなさそうだ。
ギリギリで現れたザルムントに審判や運営が駆けつけて文句を言っている。
だが、ザルムントはそんなこと気にせずに早く防具をつけろと言うように腕を広げた。
「やっぱり、変な奴らばかりだ……」
ヤヨイはザルムントを見てまた溜め息をついた。
会場もふてぶてしい奴の態度にブーイングが起きている。
そんな険悪な空気の中試合が始まった。
ザルムントの対戦相手は、ジリジリとすり足で近寄っていく。
ザルムントはあくびをしながら、自分の模擬剣を床に落とした。
「あいつワザと剣を捨てたぞ」
ヤヨイが声を上げた。
相手の選手もその行為に驚いて一瞬立ち止まったが、すぐに隙と判断して一気に攻めてきた。
ザルムントは相手に向けて人差し指を向けると、魔方陣が現れた。
魔法?
この大会、魔法を使っていいのか?
相手はザルムントを斬りつけようと剣を振り下ろした。
会場からは歓声が上がる、もののすぐにどよめきが起こった。
相手は剣を振り下ろした、ハズだが、ザルムントは全く微動だにしていない。
「あっ、剣が!」
ナイナがザルムントの頭上を指差した。
模擬の剣が宙に浮いている。
そして、相手の手からは剣が外れていた。
魔法で相手の剣を抜き取った、のか……?
相手は手にあるはずの剣がなく、焦っていたが、その隙にザルムントは宙に浮いた剣を操作し、相手の頭に一撃を入れた。
会場が静かになった。
間をおいて、審判が手をあげ、遅れてファンファーレが鳴った。
汚い……こんなの剣の試合じゃないだろ!
「ナイナ、魔法はいいのか?」
ヤヨイがナイナに聴いた。
「はい、ルール上は用意された剣でプロテクターを攻撃すれば勝ちとなってます……」
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