第28話 荒れる城の人達
貴族のキズァボンは観客席で気を失っていた。
試合会場は騒然としている。
ヤヨイやっちゃったよ……
でもヤヨイの性格的にワザと負けるなんてできないだろうし、審判はヤヨイが攻撃を当てても判定してくれないんじゃ、荒っぽいけど、こうでもしないと、勝つことなんてできかった……
ヤヨイは審判に連れられて、選手控え室に移動していった。
キズァボンの母親は泡を吹いて気を失っている。
その横で父親が使用人に文句を言っている。
「どうなってるんだ! うちのキズァボンは優勝できるんじゃないのか!?」
「も、申し訳ありません」
使用人も想定外の事態に困惑している。
「なんなんだあの女、おい! あの女の出生地と家柄を調べて来い!」
キズァボンの父親の怒りが収まらない、まずい事になったかもしれないな……
バタバタしている中、キズァボンの親や使用人達は城の関係者に連れられ、席から離れていった。
試合会場は未だに静かなままだ。
試合場の審判達はこの試合について会議をしている。 そこに大臣が声かけし、大臣とともに審判が話しだした。
観客がひそひそと話し始める。
「なんかちょっとスッキリしたな……」
「おい……聞こえたらまずいぞ……!」
「この試合どうなるんだろうな?」
「さあな……」
俺の耳に入ってくる限りは、立ち見の観客達はキズァボンのことをよく思ってなかったようで、ヤヨイのやった事に好意的な感じだ。
審判達と大臣が離れていき、ひとりの審判が手をあげる。
ようやく音楽隊がファンファーレを演奏し始めた。
どうやら、協議の結果ヤヨイの勝利が決まったらしい。
「おおおぉ」喜んだらいけない、そんな空気はあるが、どことなく、低いトーンの静か目な歓声が会場に響いた。
なんだか、すごい空気になってしまった……
これは早くヤヨイにあって、なんなら棄権させたほうがよさそうだ。
大庭の中からは貴族の席があって、選手控え室には行けそうにない、城内を回って行くしかないか。
大庭を出て城内に入ると、城内もなんだかざわついている、ここまでヤヨイのやった影響がでてるのか……
「ロジカさん!」
ナイナの声だ。
「連劇会で、飛び込みの女の子が相手を倒したって聞いて、まさかと思ってきたんですけど」
「そのまさかだよ……」
ナイナが頭を抑えて、フラついた。
「やっぱり……」
「しかも貴族のえーっと、なんとかボンとかっていうのを倒しちゃったみたいで、」
「もしかして、キズァボン様?」
「そう、その人だ」
ナイナが頭を抱えて悩みだした。
「よりによって、なんでそんな相手と当たるのよ……」
やっぱりやばいことなのか……
「そんな不味いのか、あの貴族?」
俺の質問に答えることなく、ナイナは選手控え室に向かいだした。
「とにかく、ヤヨイに会いましょう!」
ナイナは城の中から選手控え室に向かって走りだした。
ナイナの案内で城の中を巡り選手控え室にたどり着いた。
ヤヨイは、どこにいるんだ?
「何を慌ててるんだ、事件か?」
この何にも囚われなさそうなこの飄々とした声は……
「ヤヨイ!」
俺が声の方を振り向く前に、ナイナがヤヨイに詰め寄った。
ヤヨイは城の関係者達に囲まれていたが、ナイナがその者達をどかして近寄っていく。
「ナイナ、どうしたんだ、あっ、ちょっ……!」
「なんてことしたんですか! 大変なことなりますよ!」
すごい形相でナイナが強引にヤヨイに話しかけた。
「もう、なんなんだ、みんなして! 私が何をしたっていうんだ?」
「誰だ君達は、この女の知り合いか?」
ヤヨイの近くにいる城の関係者が話しかけてきた。
「ああ、ヤヨイは俺の仲間だ」
ナイナが俺と城の関係者の間に入ってきた。
「申し訳ありませんでした!」
ナイナは城の者達に深く頭を下げた。
怒ったり、謝ったりとナイナがかなり動揺してる。
ヤヨイのことを城の関係者達が再度包囲した。
「私は、あの貴族が試合に参加させてやると言ってきたから、乗っただけだ」
ヤヨイが経緯を話しだした、城の関係者達はさっきまで、ヤヨイを問いただしていたようだが、急に口を閉じる。
「だから、いきなり試合に出れたのね……」
ナイナが納得している、普通なら急にこの大会に出れるようなものではないってことか。
「それで、試合中もあの貴族が「僕が勝ったら嫁になれ」だのと言ってくるから……」
珍しくヤヨイが言葉に詰まっている。
キズァボンって奴、試合中にヤヨイを口説いてたのか。
「相手に攻撃をしたけど、判定してもらえなかったよな」
確実に一撃決まっていて、ヤヨイはそれを審判に問いただしてたのに、審判は見て見ぬ振りをしていた。
その事を問いただそうと城の関係者達の顔を見る。
「……」
俺の顔を見ようともしない……
「ナイナ、ヤヨイが倒した貴族はそんなに偉い人なのか?」
ナイナは言葉に詰まりながら返事する。
「はい、貴族の方々の中でも上流に位置する方で、国の運営や諸外国への対応などの決定権を持つ、家柄の方です」
漠然としてるけど、要はかなり偉い家系ってことか……そんな奴が冷やかしと権力を振りかざして試合にでてきたのをヤヨイが倒してしまったってことか。
「……最後はどうしようもないから、ああするしかなかったんだ」
ヤヨイもどうしようもなく、最後は無理やり倒すことにしたってことか……
「まあ、プロテクターを破壊して、気を失わせれば誰が見ても勝ちだよな」
相手の立場はどうあれ、今回の事に関しては俺はヤヨイにすべての非があるとは思えない。
城の関係者が、俺の前に立った。
「うちの国賓に怪我をさせたんだ、この女はしばらくは我々の監視下に置く事になる」
「じゃあこの後の試合はでれないのか?」
ヤヨイは試合に出たいみたいだ、こんな状況でよくそんなこと思えるな……
「さあな、我々にもそれは分からん……」
城の関係者は冷たくあしらった。
「おいっ!」
俺らに向かってキズァボンの父親が慌てた顔で向かってきた。
「何をしているんだ、どけ!」
キズァボンの父はヤヨイを囲んでる城の関係者達を無理やりどけ、苦々しい顔をしてヤヨイに顔を向けた。
「ヤヨイ姫、この度は私のバカ息子が大変失礼なことをして、申し訳ありませんでした」
キズァボンの父がヤヨイに向かって深く頭を下げてきた。
姫? それよりもヤヨイのことを姫だって……?
しかも急になんだ……この態度の変わりよう……
ヤヨイも不思議そうにキズァボンの父を見ている。
「まさか、あなた様がヒノマル国のご令嬢だと知っていればこんな無礼はしなかったのですが」
「えっ!?」
ヒノマルって国、俺でも知ってる有名国だ、ヤヨイがそこのお姫様?
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