第27話 大剣士練劇会が始まりました
試合場に選手が入場し、整列をはじめた。
やっぱり、ヤヨイが並んでる……
当日参加なんて出来たのか、なんて早業で受付を済ませたんだ。
目的の為ならかなりの行動力があるからな、ヤヨイは……
選手達の入場が終了し、試合場の脇にいた城の音楽隊が、演奏を始めた。
「そろそろはじまるぞ!」
観客がさらに集まりだしてきた。
選手達の前に王が現れる。
この祭一番の催し物なだけあって、王まで出てくるのか。
距離があって人混みに混じって観ているせいで、王が何を言っているのかは聞こえないが、選手達に挨拶を済ませて王は特設の豪華な試合観戦用の椅子に腰かけた。
選手達は2名の選手を残し、試合場から城の中の選手控え室や、別の場所に向かいそれぞれ移動していった。
試合場に残った2人の選手が向かい合う。
城の試合用の案内役が、2人の選手に寄っていき、頭と腹部にプロテクターを装着させ、模擬の剣を渡した。
どうやらこの者達が一回戦を行うみたいだ。
防具と武器の準備が終わり、審判があらわれ、手を上空に交差させ上げた。
「わぁぁぁぁっ」と大きな歓声が上がった。
今のが、試合開始の合図みたいだ、
「一回戦から楽しみな試合だよな」
「隣町の剣術師範ナシゴは今年こそ優勝するぞ!」
「去年大健闘した、ムミシチだってわからないぞ!」
「この試合どっちが勝ってもおかしく無いな」
周りの観客が分析をしている。
この試合、観客達の話だと実力者同士の試合のようだ。
まずは、ムミシチがナシゴの周りをかき回すようにグルグルと回る。
「速い! ムミシチはなんてスピードなんだ!」
俺にはすごさがよくわからないが観客達がムミシチのフットワークに興奮しながら盛り上がっている。
ムミシチが、ナシゴの背後を取り、斬りかかった。
しかし、ナシゴは斬撃の気配に気付き、ムミシチの剣をはじき返した。
「おおおおぉ」
観客の声が唸った。
いい勝負だ、両方とも実力があるっていうのは納得できるような始まりだ。
でも、この2人の戦いを観てる感じ、ヤヨイの方が強いような気がする……
ムミシチがナシゴに連続で斬りかかっていく。
ナシゴは手数の多い攻撃を捌いていくが、徐々に押され後退しだした。
「おいおい、ムミシチが優勢だぞ!」
「あのナシゴが、一回戦負けかよ」
観客の声の通り、ナシゴは後退し、体制を崩した。
大きな隙ができたナシゴにムミシチはトドメの一撃を決めるため、剣を振りかぶった。
その時だった、体制を崩していたはずのナシゴが、素早く身体を立て直しムミシチのガラ空きの腹に剣を叩き込んだ。
ムミシチの腹部のプロテクターに模擬刀の跡が付いた。
審判が手を挙げると、楽器隊のファンファーレの演奏が始まった。
「うおぉぉぉぉぉ!」
どうやら今のでナシゴの勝利が決まったらしい。
プロテクターに攻撃が決まったら決着になるルールみたいだな。
割と面白いな、各地の強豪が集まって見応えもあるし、人気があるのもわかる。
ムミシチとナシゴは試合が終わると、早々と試合場を去っていく。
それに続き第2回戦も早速始まろうとしている。
テンポがいいけど、ヤヨイは大勢参加者のいるトーナメント表の真ん中くらいだったから流石にまだ試合にはならないだろう。
どこかにいるだろうから探しておくか。
試合が始まってさらに人が増えてきてる、大庭だけじゃなくて、城の二階からも覗いているものもいるし、一大イベントだけあって人気ぶりはすごいな。
そんな人混みを掻き分けて、選手達が移動していった方に方に向け、進んでいった。
人をすり抜けて、しばらく進んでいくと、座り見用の席に着いた。
ここを抜けないと、選手のいる場所には行けなそうだけど、ここから先の座り見席は貴族や国賓専用になっていて一般の者は入れないように、兵士に見張られている。
ヤヨイに会うのは難しいか、一言言っとかないと、無茶しそうで怖いんだけどな……
「ねぇママ、今年は僕、優勝できそうかな?」
座席側で華やかな服を来た20歳そこそこの貴族の男が、試合について話をしているのが聞こえる。
貴族でも参加する人がいるんだな。
「キズァボンちゃん、一昨年、去年と運悪く負けちゃったけど、本当なら優勝できる力があるんだから大丈夫よ」
「ふふふ、そうだよね、今年はできるよね、貴族の僕が何度も負けるなんて許されないからね」
なんだか、典型的な貴族のボンボンって感じだ、平民の俺から見てあまり気分は良くないやつだ。
「初戦は飛び入り参加の女の子か、怪我をさせないように気を付けなさい、キズァボン」
えっ、まさか……ヤヨイの初戦の相手、こいつじゃないだろうな……
「グフフ、可愛いよねあの子、もう僕に惚れちゃってるかもしれないな……レディには優しくしなきゃ、貧乏臭い平民だから僕に釣り合うかな、グフッ、グフフ……」
なんだこいつ……
立ち見側からひそひそ声が聞こえる。
「あのバカ貴族の相手、かわいそうだな」
「毎年、露骨な審判の贔屓で勝ち上がってるクソ貴族だろ」
「しかも毎年自分が負けた相手を処刑してるらしいぞ」
「それじゃあいつに勝てないじゃないか……」
なんだか、相当嫌な奴みたいだな、この貴族……
嫌な予感しかしないけど、初戦がヤヨイじゃないといいんだけど……
「そろそろ僕の試合だ、言ってくるよパパ、ママ」
あの貴族そろそろ試合か……
試合場を見てみると、ヤヨイがスタンバイしてる……
やっぱりヤヨイが対戦相手か……
頼むぞ、無事に終わってくれよ……
淡々と前の試合が進んでいき、しばらくしてヤヨイの試合の順番が巡ってきた。
試合が始まると会場が今までとは違う妙な静けさに包まれた、あの貴族の悪評が会場に悪い空気をもたらしているのだろう。
審判が手を上空に交差させた。
さっきまで聞こえた歓声が聞こえず、観客席からは息を飲む音が響いた。
「ディヤァァァァ」
ドタドタと重そうに剣を振りかぶりながら貴族がヤヨイに向かってきた。
この貴族、どうみても強くないぞ、本当に権力だけで勝ってきた奴なのか……
ヤヨイも嫌なのか、ちょっと引いているように見える。
貴族の攻撃を回避すると、ヤヨイと貴族は向かい合った、何か話をしてるみたいだ。
また、貴族は攻撃を再開する。
貴族が攻撃してくるのに合わせて、ヤヨイは腹部のプロテクターを斬りつけた。
相手にダメージはない、ヤヨイにしては繊細で上出来な攻撃だ!
第1試合のときと同じような跡がプロテクターについてる、これで勝利で終わりだ!
だが、確実にヤヨイの攻撃は決まっているのに審判は手を上げなかった。
ヤヨイは審判に指差して何かいっているが無視さてれいる。
おいおい、フェアな戦いじゃないのか……
やられた側の貴族は気にせずにヤヨイに攻めてくる。
ヤヨイの雰囲気が変わった……
「キズァボンちゃ〜ん、がんばれぇぇ」
「勝ってるぞ、キズァボン!」
貴族の両親が応援してる、この両親も何を見て応援してるんだ……
貴族の奴がヤヨイに剣を振り下ろそうとしたときに合わせてヤヨイが強烈な一撃を入れた。
静かな会場に重い打撃音が鳴り響いた。
ヤヨイの攻撃で貴族のプロテクターは壊れ、貴族は観客席まで吹き飛んでいった。
ただでさえ静かな会場がより、静まり返った。
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