第22話 仲間にならないか

魔神猿は腰を下ろし、俺達と話を始めた。


「悪かったな、お前らの仲間を連れっていってしまってな」


そもそも、この一件は何が目的だったんだ? こいつに聞きたいことは沢山ある。

「お前はなんでノリスをさらった?」


魔神猿は頭を抱え話を始めた。


「あのクソ坊主にいきなり頭に輪っかをつけられてな、そしたら、奴にテイムされてしまった……」


魔神猿を苦しめていた鉢金か、あれは惨憎法師に付けられてたのか。


「その鉢金はテイムを無理やりさせるための呪いの装備なのかもしれないな……」


パルマが魔神猿の鉢金を観察しながら話した。


魔神猿が鉢金を外そうとするが、外せない。


「チッ、まだ取れないか……」



ヤヨイが魔神猿に話しかける。


「で、お前がノリスをさらう事にさせられたのはわかったが、そもそもノリスを何故さらった?」


「さあな、俺は連れてこいとしか言われてない。 クソ坊主が何を考えてるなんて興味もないからな……どうせロクでもない事だろ」


魔神猿もノリスをさらった目的は知らない……


「ここは……どこ……?」


ノリスが目を覚ました。


「ノリス、無事でよかった……」


パルマがノリスが普通に目覚めたのを見て安心してした表情になった。


「あっ! あの時のモンスター!?」


ノリスが魔神猿を見て、距離を取ろうとした。

自分をさらったのがこいつだと覚えてたようだ。


「済まなかったな、やらされていたとはいえ、俺がやってしまった事だ」


魔神猿はノリスに頭を下げた。


「あっ、いや私気を失ってたせいなのか全然覚えてなくて……」

ノリスは敵だと思って警戒した魔神猿が低姿勢な態度できたことに戸惑ったのか、変な受け答えをした。


「法術で気を失わせたからな、後遺症とかは特にないはずだ」


「ねぇ、ホウジュツってなぁに? 魔法みたいなもの?」


聞いたことのない言葉にフランが食いついた。


「法術ってのはな、魔法とは似てるが少し違う、魔法は魔法陣を元に魔力を増幅させ発動させるが、法術は武器や身体の一部に予め魔力を封じ込めておきそこから発動させるものだ」


「じゃあ、モンスターのおにぃちゃんのどこかに魔力が封じ込められてるんだね」


モンスターのおにぃちゃんと呼ばれたことに魔神猿は少し複雑な表情をしたが、満更でもなさそうだ。


「俺は生まれつき体毛に魔力が込められている」


そういうと魔神猿は頭の部分あたりの体毛を引き抜き、息を吹きかけた。


魔神猿の息によって舞い散った毛は発火し、火の玉となり、しばらくして火の玉は消滅した。


「こんな具合でな、この法術を使って幻覚をかけたり、気を失わせたりしたって訳だ」


「魔神猿が来たときの俺の記憶が曖昧だったのは、そういうことだったのか……」


「答えられるのはこれくらいだ、俺はそろそろ行かせてもらうぞ」


魔神猿はこの場を離れようとした。


「待て、魔神猿、これからどうするつもりなんだ?」


パルマが魔神猿を止め、話しかけた。


「クソ坊主にこのまま操られているのは我慢ならないからな、奴がいないところでひっそりと暮らしていく」


「その鉢金が取れてないんだ、まだ惨憎法師にテイムされたままになってるはずだ、下手したらその鉢金の呪いで殺される可能性があるんだぞ、それでいいのか?」


「こんな奴の下でこき使われるくらいなら呪い殺された方がマシだ」

魔神猿の表情は本気だ、プライドの高そうなモンスターだから、嫌な命令に従うのは許せないのだろう。


「行かせるわけがないだろ……」


「ぐあぁぁぁぁ!」

魔神猿が頭を抑えて苦しみだした。


惨憎法師だ、マウスマンの一撃で倒したと思っていたが、まだ意識があったらしい。


「あいつ、仕留めきれてなかったか!」


「チュウ!!」


パルマとマウスマンが再度臨戦態勢をとった。


「また、来るつもりだろうが無駄だ!」


惨憎法師はマウスマンを睨みつけた。


マウスマンは怯えて尻尾を丸めた。


「さっきは不意打ちで思わぬダメージを負ってしまったが、本来この俺がこんな雑魚のネズミにやられる筈がないんだ」


惨憎法師が魔神猿に向け手を向け、拳を握りしめる。


「うぎゃぁぁぁぁ」

魔神猿は更に苦しみながら無理やり立ち上がらされた。


「さあ、魔神猿、お前がこのネズミとその飼主を殺すんだ……」


鉢金が怪しく紫色に光だすと、苦しむ魔神猿が無理やり操られるようにマウスマンに向け歩きだした。


「とりあえず、あのテイマーのモンスターを倒せばいいんだろ?」

状況を見ていた、ヤヨイが惨憎法師を倒そうと進みだす。


「ヤヨイ、待て!」


俺はヤヨイを止めた。


「なんだロジカ、放っておくと、パルマが危ないぞ」


「わかってる、でもこれはパルマのテイマーとしての問題なんだ、パルマにやらしてやってくれ」


自分のモンスターをバカにされたんだ、パルマの気持ちはわかる、ここはパルマが解決しなきゃダメなんだ!


「ノリスの無事も確認できたしな……ロジカそう言うなら、まあいい……」


ヤヨイは足を止めた。



「お前は俺のマウスマンを何もわかってない……」


俺が心配するまでもなく、パルマは惨憎法師とやる気満々みたいだ。


怯えてたマウスマンはパルマの声を聞いて、やる気を取り戻しファイティグポーズを取った。


「俺はこのマウスマンを信頼してるし、マウスマンも俺のことを信頼してくれている、テイマーの強さってのはお互いの絆にあるんだよ」


パルマの言葉を聞いているマウスマンの目も本気だ、互いの信頼を確かに感じる。


「くだらないんだよ! テイマーってのはいかに効率よくタイムしたモンスターを使うかなんだ、信頼だの絆だのが何の役に立つんだ!」


「マウスマン、特訓の成果を見せてやるぞ、グローブを外せ」


「チュウ!」


マウスマンはつけていたグローブをかじって外した。


外れたグローブは重さで地面にめりこんだ。


古典的なトレーニングをやってたんだな……

素手になったマウスマンは今までよりもさらに身軽にシャドーボクシングをしだす。


「もういい、やれ、魔神猿!」


「ぐあぁぉぁぁぁ!」


苦しみながら魔神猿はマウスマンに襲いかかってきた。


「マウスマン、お前の全力を叩き込んだやれ」


「チュウ!」


飛び込んできた、魔神猿を交わし、マウスマンは一瞬で惨憎法師の間合いに入り込んだ。


雑魚モンスターのスピードじゃない、惨憎法師の顔色が変わった。


「ま、待て! 俺はロジカってやつの拠点を襲って実力を調べてこいと頼まれただけなん……」

「チュチュチュチュチュッ!」


惨憎法師が全て喋り終わる前にマウスマンのパンチのラッシュが始まった。


「チューーッ!!」


締めのストレートをくらい、ボコボコに殴られた惨憎法師は完全にノックアウトし、吹き飛んだ。


「テイムしたモンスターにクラスなんて関係ないんだよ。俺のマウスマンは最強だ!」



魔神猿の鉢金が割れ、頭から外れ落ちていった。


「呪いが解けた」


「なぁ魔神猿」


パルマが間を空けずに話しかける。


「俺の仲間にならないか?」

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