第10話

「『真実の愛』とやらを見つけたんだって。」

それを聞いた紅の美女は、呆れたように漆黒の瞳をグルリと回した。

魔技タブレットを受けとり、ゴシップを流し読みながら眼を細める。

「貴族の通う学園内で、高位貴族の子息の前にばかり。

都合よく落ちているものなのねぇ。

真実の愛とやらは。」

「そうみたいだね。

あと、時たま聞こえてくるのは、『イベント』『攻略』『ヒロイン』ってワードかな。」

「そう。

コリエペタルでやるぶんには、好きにしてくれていいんだけど、姫様にそんな馬鹿馬鹿しいものをお見せしたくはなかったわね。」

「あの第2王子バカ、真実の愛云々以前に、竜皇女の伴侶候補の意味もはき違えてみたいだからねー。」

「アンリは、悪い子じゃないんだけど、どうも手落ちが多いようね。」

「しばらくジャルダンは『無い』かな。」

「そうね。

順番は守らないとだけど、ジャルダンは『無い』わ。」




ずいぶんと余裕をもって駅に着いたクラリスは、マルタのカフェのショーウィンドウの前で悩んでいた。

「『ストライプのチキンサンド』も美味しかったし、『ホワイトトマトのBLT』も気になるわ。『プチプチ豆ディップのせホットドッグ』もいいわね。そして、『マイクロイチゴのデザートサンド』なんて美味しいとしか思えない!

どうしたらいいのかしら~。」

クラリスの旅装は、若草色のシンプルなドレスに、クリーム色のマント。控えめなつばの帽子は、空の旅仕様で顎の下でリボンで結ばれている。

夜会ではないので扇を手にすることはないが、帽子には、目と鼻まで隠れるベールが付けられている。

「姫様、ご自分で食べられるだけにしてくださいね。

私は『レモンビーフと根菜のサラダサンド』にしますので。」

しれっと先に注文している黒髪メイドに、クラリスが膨れた。

「あー!

半分こしてもらおうと思ったのに~

ひどいわ、マヤ!」

「さ、決めてくださいな。

イルカゴンドラに向かわなければ。」

「ね、ね、『マイクロイチゴのデザートサンド』だけ、半分こしない?」

「はいはい、分かりました。

あとはお決まりですか?」

「ホワイトトマトにするわ。

マルタ、お願いね。

本当にいつも美味しそうで、ここに来るのが楽しみなのよ。」

「ありがとうございます🖤

姫ちゃんがそう言ってくれるから、あたしも作り甲斐があるのよぉ。」

手早く注文のサンドイッチを作り、袋に詰めているのは、黒髪くせ毛のキレイなお姉さん...ではなく、オネェさんだった。

「マルタにも会いたいしね。

ありがとう。

イルカゴンドラの中でいただくわね。」

「はい、お気をつけて。

また、待ってるわね~。」

黒髪メイドがサンドイッチの袋を受けとり、主従は目的地に向かう。



花びらの国コリエペタル五国には、ルスルス湖沿いに駅がある。

五国を繋ぐ回覧船も発着するし、中央のシエルへ向かう羽イルカ便もそこから出る。各国への輸出入の大型船も着くため、どこの国の駅もかなり大きな商業施設や宿泊施設があり、駅を中心にして街としても賑わっている。

花とレースの国ジャルダンからも、特産である美しい花やその加工品、きらびやかなレースと服飾品が輸出されている。

駅に併設されている商業施設の中にマルタのカフェも出店しているのだ。

クラリス達は、あちこちの店を覗きながら、羽イルカ便の発着ゲートに向かっていった。

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