第2話 狭山丘陵は孤高の森
「ええっ? 王様だったんですか?」
「そうよ、空堀川は昔は多摩川だったの。多摩川はこの地域の王様じゃない? 五、六万年前の話だけどね」
そんなこと知らなかった。
僕は想像する。家の前に気持ちの良い大きな河原が広がっている風景を。
「でもね、かなりの暴君だったらしいよ」
「ぼ、暴君って……?」
それって悪い王様じゃないか。
「たびたび洪水を起こして、川砂利をまき散らしていたみたいなの」
洪水!?
最近、地球温暖化のためかあちこちで洪水が起きている。水が引くと田んぼが砂利だらけだったというテレビの映像を思い出した。
「そ、そんなの、ひどいじゃないですか」
「そうよ、暴君だもの」
立ち上がって僕の瞳をのぞき込むお姉さん。まるで僕の反応を観察するように。
「でもそのおかげで地層の中に湧き水の通り道ができたのよ。砂利の上に火山灰が積もって武蔵野台地になったんだから。少年は知ってる?
お姉さんは説明してくれる。
武蔵野台地の東にある
その三つが並んでいるのは、水を通しやすい砂利の層が地表に出る場所だからということも。
「しかし多摩川はだんだん南へ進路を変えてしまった。なぜだかわかる?」
それはなぜなんだろう?
ひどい暴君ぶりに住民の反発があったとか? 五万年前に人類はいないと思うけど。
するとお姉さんは意外な言葉を口にする。
「大地震よ。
ええっ? 大地震だって?
でも立川断層という名前はちょっとだけ聞いたことがある。
「こんな風にね、断層が動いてだんだんと狭山丘陵の方が高くなっちゃったの」
お姉さんは手振りを交えて説明してくれた。
断層運動で狭山丘陵の標高が高くなっちゃって、川は南へ進路を変えるしかなくなったという。
「すごいでしょ? こうして狭山丘陵は多摩川を見下ろす存在になったの。平野から取り残された丘って感じ?」
まるで孤高の森。
天に届くまで高くなったら、まるでラピュタじゃないか。
だから、こんなに自然が多いのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます