序章「勇者フィルリークの宿命」

第1話「元の世界との別れ」

「これが、俺達の、魂の一撃だあああああ!!!!」


 勇者フィルリークは、仲間達の力を、その想いを、己の精神力の全てを聖剣に込め産み出された奥義を破邪王・ディべロスへぶつける!

 

「グオオオオオオオ!! 我が、この破邪王・ディべロスが人間如きに敗れ去るなどッ」


 フィルリークの奥義を受けた破邪王・ディべロス、その傷は深い。


「テメェが馬鹿にした、俺達人間の絆の力だっ! うおおおおおお!!!!」


 フィルリークは、更に気合を込め奥義の威力を増大させる。

 

「グアアアアアア!! 我が滅ぶとも、悪は潰えぬぞ!!!! グオァアアアアア!!!!」


 フィルリークの奥義が破邪王・ディべロスを打ち破ったのだ!

 

「やっ、た、ぜ、みんな」


 全ての力を使い果たしたフィルリークは地面に倒れ伏せた。


「フィル!」


 仲間の女僧侶がフィルリークに駆け付け『治療魔法ヒーリング』を掛けた。


「ははっ、あんがとな」


 フィルリークは女僧侶に対して優しい笑みを投げかけた。


「フィル殿、破邪王城が崩れるかもしれないでござる、急いで脱出するでござる」

「ああ、頼むぜ」


 男魔導士が『脱出魔法エスケープ』を使い、フィルリーク達を破邪王城の外へ脱出させた。

 

 

 *



『勇者フィルリークよ、私の声が聞こえますか?』


 破邪王城の外へ出ると、フィルリークの脳内に対して何者かが直接語掛けて来た。

 

「女神アルテイシアか? ああ、聞こえている」


『破邪王・ディべロスの討伐ご苦労様でした。 これでこの世界の平和は取り戻せた事でしょう。 しかし、平和が乱れた世界はまだまだ沢山あります、勇者フィルリークよ次の世界の平和を救う為旅立って下さい』


「分かっている、それが俺の勇者としての使命だからな」


 女神アルテイシアより次の指示を受けたフィルリークは、この世界で共に戦った仲間達に向かって飛び切りの笑顔を見せた。

 

「フィル? 嫌だよ、そんなの」


 女神アルテイシアの言葉は仲間達にも聞こえていたのだろう。

 その言葉の意味を察知した女僧侶がフィルリークに抱きより大粒の涙を流し始めた。

 

「ミィル、すまない、それが、勇者として生まれた俺の使命なんだ」

「嫌だ、行っちゃいやだ、私、貴方と離れたくない」

 

 フィルリークは、わんわんと泣きじゃくる女僧侶の頭をそっと撫でた。

 

「ハッハッハ! おう、フィル! おめーの事だから、女神何とかって奴が言う世界を救ったらまた戻ってくるんだろ!」


 男戦士が、泣きじゃくる女僧侶の背中をポンと叩きながら豪快に笑った。

 だが、その表情は少しだけぎこちなかった。

 

「ああ、俺の宿命が終わった時、この世界に必ず戻る」

「約束だよ、絶対だからね、破ったら許さないからね」

 

 フィルリークは涙の枯れ果てぬ女僧侶の肩をそっと抱きしめた。


『それでは勇者フィルリークよ、これより転生の儀を行います』


 女神アルテイシアの言葉と共に、フィルリークの身体が青白い光に包み込まれた。

 暫くするとその光は収まり、それと同時に全ての力が抜けたフィルリークは地面に崩れ落ちたのであった。

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