5話 幸運狩猟と武器特性
何が起こったのか全く分からない。
俺は爆発茸の爆風で吹き飛び、持っていた銃が黒夜叉の上に落ちただけ。
それなのに、黒夜叉は動けなくなって、一般人である俺に簡単に狩られてしまった。
「良くやったな」
肩で息をして居る俺に、ゆっくりと兵子が近付いて来る。
「入山初日にもののけを狩るとは。大したものだ」
「何と言うか……自分で狩った気がしないんですが」
「まあ、その通りだな」
兵子が黒夜叉に刺さっていたナイフを引き抜く。
「黒夜叉を狩る事が出来たのは、その銃のおかげだ。一狼君は逃げて居ただけだからな」
「……一応一発は撃ったんですが」
「外しただろう?」
確かにその通りです。
「とにかく、これで今日の訓練は完了だ」
「もののけを狩る訓練だったんですか?」
「いや?」
兵子がフッと笑う。
「山に入って半日生きて居たら、それで良かった」
「狩り損!?」
「そんな事は無いさ。あの状況で黒夜叉を狩らなければ、生き残る事は出来なかっただろうからな」
それを聞いてホッとする。
ちなみに、俺は山で一度死にましたけど、その時点では、まだ訓練が開始されて居なかったと言う事で良いですよね?
「さて、そろそろ日が落ちてきた。山を降りるとしようか」
ふむ、どうやら大丈夫な様だ。
それにしても、未来は先程まで元気だったのに、急に静かになってしまった。俺が何かをしてしまったのだろうか。
「……未来?」
「はひっ!?」
「どうかした? 元気が無いけど」
「いやー……」
苦笑いで頭を掻く未来。
少しの間黙って居たが、やがて口を開く。
「……一狼は凄いなと思って」
「え? 何が?」
「黒夜叉に躊躇無く止めを刺したから」
その言葉に対して、首を傾げて見せる。
「普通じゃないのか?」
「普通の人なら、野生の獣を躊躇無く殺せないと思うけど」
「俺はバイトで鶏とかを絞めてたからな」
「野生児!?」
「野生児では無いだろ」
それを聞いて、やっと未来が笑ってくれた。
「私が見ていない間に、一狼は色々あったんだね」
「それはお互い様だ」
「それは……そうだね」
未来の笑顔が一瞬陰る。
俺はそれが少し気になったが、それよりも聞いて置きたい事があったので、兵子の方を向いた。
「兵子さん」
「何だ?」
「この獲物は持ち帰らないんですか?」
「ああ、持っては帰らない。勝手に付いてくるけどな」
その言葉に、再び首を傾げて見せる。
「ゾンビ化でもするんですか?」
「する訳無いだろう。ゲームのやり過ぎじゃないのか?」
「この山をゲームだと言ったのは、兵子さん……」
「仕方無いな。少しだけ説明してやろう」
相変わらず俺の言葉は無視ですか。
そんな事を考えて居ると、兵子がグイグイ山を降り始めたので、俺達は慌ててそれを追い掛けた。
「一狼君。君が最初に死んだ時、強制的に山から放り出されたのを覚えているか?」
話を蒸し返されてドキリとしたが、無言で頷いておく。
「それと同じで、もののけも死ぬと、山から放り出されるんだ」
「最初から気になって居たんですが、それはどう言う原理なんですか?」
「そんなのは知らん」
「はあ、知らんのですか」
そこまで聞いてハッとする。
「まさか! もののけも俺達と同じで生き返る!?」
「生き返るのは、もののけ専用の武器を持つ人間だけだ」
「ああ、そうですか」
「全く、一狼君は私の説明をきちんと聞いて居ないのだな」
聞いて居ない訳では無い。追加の情報だから、分からなかっただけだ。
「そうなると、狩猟の後は楽ですね」
「そうだな。しかし、野草や小さなもののけは、自分で持ち帰らないと持ち帰れない」
「成程、デスルーラは大物の時だけと」
「でするーら?」
ゲームの用語で、自ら死んでダンジョンから抜け出す方法。どうやら兵子は、あまりゲームには詳しく無い様だ。
「ねえ一狼。この山で死に過ぎると、戻って来られなくなるよ?」
話に介入して来る未来。
「神隠しって言ってね。霊山を軽視した行動を取り続けると、山に嫌われて取り込まれちゃうの」
「マジか」
「うん。だから、山での行動は気を付けてね」
笑顔で話す未来に対して、苦笑いを返す。
嫌われるという定義は良く分からないが、とにかくふざけた行為はご法度と言う事か。
これから狩人として何度も山に入るだろうし、覚えておく事にしよう。
(それよりも……)
俺は兵子にどうしても聞きたい事があった。
「あの、兵子さん」
「何だ?」
「先程の戦闘の事なんですが」
兵子が首を傾げてくる。
「俺の銃が黒夜叉に落ちた時、急に黒夜叉が動けなくなったんですけど、あれって何なんですかね?」
それを聞いた兵子が急に立ち止まり、クルリとこちらを向く。
「それは多分、一狼君の持っている銃の、特性のおかげだろう」
「特性?」
首を傾げると、兵子が左腰にぶら下げていたナイフを差し出して来た。
「これは?」
「私の専用武器だ。それを抜いて、近くの枝を切ってみろ」
全長30㎝位の刃よりも柄が長い包丁。とても狩りに使う刃物には見えない。
「ほっ」
言われた通りに枝を切ろうとする。
しかし、枝は左右に揺れただけで、全く切れなかった。
「返してくれ」
言われるままに包丁を返す。
掌で包丁を回す兵子。
そのまま柄を軽く掴み、包丁を横に振る。
「!?」
その光景に、俺はゴクリと息を飲む。
兵子はその包丁で、枝では無く木を真っ二つに切ってしまった。
「これが私の武器、サバサキの特性だ」
ゆっくりと倒れる木。それを眺めながら、包丁を腰に戻す。
「この様に、専用武器には、選ばれた人間にしか使えない理由がある。そして、一狼君の武器は……」
「もののけを拘束する力がある!」
未来が全力で言う。
しかし、俺達はそれに同意しなかった。
「あれ? 違うの?」
「未来君、君は一度武器に触れて居るのに、どうして気付かないんだ?」
「はぇ?」
「仕方ない。一狼君、見せてやれ」
兵子に頷き、銃を前に構える。
恐らく、俺の武器の特性はこれだろう。
「一狼?」
俺の行動を見て、未来が首を傾げる。
理由は俺が銃のストックではなく、弾が打ち出される銃口の方を持ったからだ。
「野球でも始めるのかな?」
「まあ、それに近い」
それだけ言って、近くにあった岩の前に立つ。
構えはゴルフの構え。
「せえのっ!」
岩に向けて思い切り銃を振る。
銃のストックが岩に当たった瞬間、岩は軽々と宙に浮き、そのまま山の奥へと飛んで行った。
「ふむ、130ヤードと言った所か」
「ふえー」
未来が気の抜けた返事をする。
「見ての通り、一狼君の武器の特性は『重さ』と『強度』だ。それらを利用すれば、普通の銃とは違う使い方が出来るだろう」
俺だけが普通に持てる専用武器。それを聞いただけで、少しワクワクしてしまった。
「まあ、弾がもう無いから、銃としては使えないがな」
そう言えばそうでした。
そうなると、もうこれは銃じゃなくて棍棒だな。
「何の為の銃なのか……」
「それに関しては、私に任せてよ」
そう言ったのは、ニヤニヤして居る未来。
「何か方法があるのか?」
「ふふふ……それはまだ秘密です」
良く分からないが、何とかなる様なので、未来に任せる事にしよう。
それよりも、そろそろ山の出口だ。
「予定より随分と時間が掛かってしまったな。他の奴等はもう帰ってしまっただろう」
「そうですね。皆自由人ですから」
「しかしまあ、この三人で『査定』をするのも、中々面白そうだ」
「ですよね!」
そう言って、未来がピョンと跳ねる。随分と楽しそうだが、この後何かあるのだろうか。
(査定ねえ……)
何となく予想は出来る。
しかし、今は山を無事に降りれた事を、素直に喜ぶ事にした。
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