お嬢様と負けられない闘い
オタク同士で語りたい
学校で一番くだらないことが出来る時間、『昼休み』。
「よ、蓮二」
一足先に食い終えて、昨日見たアニメOPの続きを脳内作成していた俺(陰キャムーブ)の元に、一人の男がやってきた。
「お、犬山。どうした?」
「いやー、俺の好きなラノベがアニメ化決定したんだよ」
「マジ?」
「あぁ。あれは名作だからな〜絶対バズるぞ。今のうちに古参アピールしておいた方が他のオタクにマウント取れるだろうから積極的にアピールしていくわ。小説で表現されていた切なさがアニメでどう活きるのか! 楽しみで仕方ねぇー!! 主人公の声優はやっぱり松岡さんかな〜。ヒロインは花○香菜で頼む!」
「……お前の趣味全開じゃないか」
そう。今、超高速で喋り続けた男はオタクである。
──それもかなり重症だ。
三次元女の子恐怖症に罹患している為、女子と会話こそすれど恋なんてもってのほかな男。
「やっぱ二次元は心の救済だよ」
顎にあるほくろがチャームポイントで、身長は割と高い。
「花澤さんの声は耳が幸せになるからな〜。あの声優さんは神だよ」
「俺は戸○遥が好きだ」
「タイプが違うだろ〜。ってか、結構蓮二も知ってるんだな」
「当たり前だ。元々興味があったし」
「あーラノベから発展してってことでね」
「そうそう」
学ランを着た俺たち二人組は、傍から聞けば「オタクやぁ……きっつ」と言いたくなるような凄まじいテンポ、内容の会話を進めていた。
犬山と俺の仲は、俺が上京した小四の時からずっと続いている。
こいつは気を使っているだけで、実は随分前から俺の複雑な事情を知っていたんだと思う。
でも、敢えてこちらには何も言わなかったし、いつも仲良くしてくれている。感謝しかない。
「おーい、犬山。放課後に川端先生が職員室に来いって」
「お、了解。サンキューな」
サッカー部に話しかけられるも、犬山は気さくに答えた。こいつはオタクモードとそれ以外の切り替えができるオタクの模範のような人物だ。
でも、容姿は平凡だ。それが関わりやすい理由でもあるのだが。
「アニメって語り始めたら止まらないよな」
「わかるわ〜」
それからも他愛のないオタク話をしつつ、二人で笑いあった。
そうだよ。こういうのだろやっぱり。
ラノベだったら、よく冴えないオタクが美少女と同棲したりするけどさ。
本当は男友達とバカやって楽しく騒ぐのが一番なんじゃないか。
「そう言えば、もう少しで生徒会選挙だな」
犬山は机の上に置かれていた広報プリントを見て、そんなことを呟いた。
「あー。犬山、お前計算出来るんだし会計にでも立候補すれば?」
「うーん……アニメ見る時間が潰れるのは勘弁してもらいてーわ」
「だよな。でも、会長から強制指名でやらされる場合もあるらしいぞ? 候補者が居なければ」
「ないない。だって俺だぞ? 人望のない俺だぞ?」
悲しいが確かにそうだな、と俺たちは笑いあって、他人事のようにその話を流した。
当時の俺たちはまだ知らなかった。その話は全く他人事では無いのだ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます