第32話 率先して遊ぶな!

「それで、何で急に電子レンジの話題になったわけ?」

 肝心な部分が抜けていると千晴が訊いた。

「ああ。プラズマの光を見るのに最適な方法があるんだよ。さすがにレンジ内から取り出すことは無理だけどさ」

 桜太は摘まんだままだった竜田揚げを口に入れながら言った。

「火の玉に見えるようなものが作れるんだ」

 すぐに莉音が補足してくれた。それで科学部の中の期待度が一気に上がる。

「火の玉?面白そう」

 千晴は大きな弁当を平らげながらも興味津々だ。

「これならプラズマの実験が出来るな。林田先生に電子レンジを提供してもらおう」

 芳樹も勝手に話を進めてしまう。

「そんな実験がオッケーなら、俺がやりたい色々もいいだろ?」

 しっかり亜塔が実験を主張する。何がやりたいか不安だが、まあ林田が何とかしてくれるだろうと思うことにした。

 こうしてどんどん怪談からずれていく科学部だった。






 さて、無事に林田が機械のボタンを押して戻ってきたので、桜太は早速電子レンジの実験を提案した。その林田だが、大学からかっぱらってきたと思われるプラズマボールを抱えていた。どうやら亜塔と同じく序でに遊んでやろうという魂胆であるらしい。

 まあ、プラズマと聞いて真っ先に思いつくものは、世間一般ではテレビではなくこのプラズマボールだ。あのガラスボールの中でばちばちと電気が走っている代物である。置いてあるとついつい指をくっつけて遊んでしまうあいつだ。

「なるほど。電子レンジの実験ね。随分とメジャーなのをやるんだ」

 もさもさの天然パーマを揺らしながら、林田はさっさとプラズマボールのコンセントを差して起動させる。雷のような光が現れるとすぐに指をくっつけて遊び始めた。指導する先生が真っ先に遊び始めるというのはどういうことだろう。自由過ぎる。桜太は頭痛がしてきた。

「それで、どこに電子レンジがあるんですか?」

 桜太は頭痛を振り払うと訊いた。ともかく電子レンジの行方を知らなければならない。林田が帰って来る前に化学教室を捜索していたが見つからなかったのだ。

「ああ。ここを離職する時にさすがに置きっ放しは拙いかと思ってさ。倉庫に移動させておいたんだよ」

 林田がようやくプラズマボールから指を離した。場所が聞き出せたものの、またしてもかと思ってしまう。何かあると出てくる倉庫。林田の言う倉庫は間違いなく図書室の横にあるヤツだ。どうしてそこに有象無象のものを放り込みたがるのか。科学部の資料を取りに入った時に思ったが整理もされておらず、要らないものを適当に放り込んである場所だ。もし火事が起こるとすれば化学教室よりも断然倉庫のほうが確率が高いように思える。

「それじゃあ、実験に使用していいんですね?」

 呆れ返ってしまった桜太に代わり芳樹が訊いた。芳樹はまだ林田に対して耐性がある。

「もちろん。ぜひ役立ててくれ。置いておいてもただのガラクタだ」

 林田は嬉しそうに言うが、置いた本人がガラクタ呼ばわりとはどういうことだろうか。ガラクタと思っているなら捨てていけ。まったく困った先生だ。しかし、これでプラズマ実験は何とか成り立ちそうだ。たとえ七不思議に絡んでいなくても関係ない。

「よし。じゃあ俺たちが取ってこよう」

 珍しく亜塔が率先して立ち上がった。実は実験の為に倉庫に取りに行きたいものがあったのだ。

 ちなみに俺たちとは三年生三人のことである。亜塔が請け負った時点で大人しく芳樹も莉音も立ち上がっていた。この亜塔に付き合えるのは自分たちだけだとの思いもある。

「その実験って他に何がいるんだ?」

 すでに実験へのやる気を漲らせている迅が訊いた。普段の数字中毒もどこへやらだ。今日は一度も数字を見ていないというのに不機嫌になることもない。

「マッチと蝋燭とガラス瓶。後は段ボールがあるといいな。台座に使うんだ」

 以前に読んだ本の内容を思い出しながら桜太は答える。その本によると動画サイトで別の誰かがやった実験を見られると書いてあったが、桜太は発見できなかった。だからぜひとも成功させたい。

「ガラス瓶なら化学教室にいくつかあるな。蝋燭とマッチは?」

 楓翔が窓際に置かれたガラス瓶を確認する。そこには大小さまざまなガラス瓶が乾かすために雑巾の上に置かれていた。しかしマッチも蝋燭も先ほど教室を探した時に出てこなかった。

「ここだよ。さすがにマッチは安全管理が必要だしね。蝋燭も一緒に入れてあるよ」

 またしてもプラズマボールに指を付けていた林田だったが、教壇として使われている机の引き出しからマッチと蝋燭を取り出した。こんな遊んでいる男に安全管理を語られたくない。しかしツッコむのも面倒なので誰も言わなかった。それに最凶の変人だ。まともを求めてはいけない。

「あれ?こういう実験でメジャーなのはシャーペンの芯じゃなかったっけ?」

 ふと疑問に思った優我が訊く。たしか優我が読んだ本ではシャーペンの芯を過熱していた。

「えっ?そうなの?」

 桜太はそっちの実験を知らないので目を丸くする。蝋燭の炎が火の玉になるというのは解りやすいが、シャーペンの芯でどうして出来るのか。

「どっちでも可能だよ。要は炭素が気体になって、その後にプラズマ状態が起きているだけだ」

 倉庫から電子レンジを発掘してきた莉音が説明した。どういうわけか電子レンジを持っているのは莉音と芳樹だけだ。遅れて戻ってきた亜塔は薄汚れた段ボール箱を抱えている。

「やっぱりあったぞ。さすがは倉庫だ。これと一緒に電池の実験もしたかったんだが、電池は見つからなかったなあ」

 亜塔は言いつつ段ボール箱の中から一本の黒い棒を取り出した。

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