10話 半分こ

 部活が終わった後、つぐみさんと待ち合わせてコンビニへと赴いた。

 一限目の休み時間に肉まんの話で盛り上がり、放課後に食べようと約束していまに至る。


「一度食べたくなってしまうと、なかなか諦められませんよね」


「うんうん、頑張って我慢しても夢に見ちゃいそう」


 仲睦まじく恋人つなぎをして入店したわたしたちは、余計な幅を取らないようピッタリと密着して歩く。本来の目的はまだ果たされていないけど、すでに満足感で胸がいっぱいだ。

 充分に品数があることを確認してからドリンクコーナーへ行き、各々飲み物を選ぶ。

 お菓子などの誘惑に負けることなくレジへ移動し、会計を行う。

 どうせなら二種類を半分こしようという話になって、肉まんとあんまんを購入。

 イートインコーナーで腰を落ち着け、湯気を立てる熱々の肉まんを手に取る。

 半分こ……そうだ!


「つぐみさん、ちょっと待ってくださいっ」


 隣ではつぐみさんがあんまんを二つに割ろうとしていて、それを見たわたしは反射的に制止の声をかけた。


「ど、どうしたの?」


「半分に割るんじゃなくて、先に半分食べて、残りを渡してほしいです」


「え? いいけど、なんで?」


 案の定、つぐみさんは頭に疑問符を浮かべている。

 嫌がっているわけではなく、ただ真意が分からなくて困惑している様子だ。


「間接キス、してみたくて……ダメ、ですか?」


 いまさらになって自分の思い付きが照れ臭くなり、弱々しい口調になってしまう。


「か、間接キス……うん、いいよっ。それじゃあ、お互い半分食べてから交換ってことで」


 間接キスに照れて赤くなるつぐみさん、かわいすぎる!

 湧き上がる劣情を心の中に抑え込みつつ、肉まんを頬張る。

 同じぐらいのペースで食べ進め、半分まで到達したところで口を離し、相手に手渡す。

 そしていよいよ、念願の間接キス。

 以前にキスの練習として似たようなことをしたけど、どうしても緊張してしまう。

 チラッと隣に目をやると、同じタイミングでつぐみさんもこちらに視線を向けてきた。

 お互いに同じことを考えていたのだと直感し、どちらからともなく笑みが漏れる。

 満を持して、あんまんを口に運ぶ。

 気のせいだと言われてしまえばそれまでだけど、前に食べたときより、何倍もおいしく感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る