4話 伝わる鼓動

 一日の中でわたしとつぐみさんが一緒にいられる時間は、驚くほど少ない。

 自宅通いのわたしと寮生活のつぐみさんが登下校を共にすることはなく、クラスも部活も違う。

 帰宅してからメッセージのやり取りをしたり夜遅くまで通話したりはするけど、それはそれ。

 たとえ沈黙が続こうとも隣にいられるだけで幸せとはいえ、顔を合わせる機会が限られている以上、スキンシップをしたいと思うのは無理もないこと。


「つぐみさんは、わたしにベタベタ触られて嫌じゃないですか?」


 休み時間に廊下で合流した後、開口一番に訊ねる。

 返答が怖い質問ではあるけど、いまのうちにハッキリさせておきたい。


「え? 全然嫌じゃないよ。むしろ嬉しいっ」


 つぐみさんは突然の問いに一瞬の戸惑いを見せるも、すぐさま屈託のない笑みへと変わる。

 ただひたすらにかわいい。

 素敵な表情と心から望んでいた内容の答えに、いまにも走り出してしまいそうなほどの活力がみなぎってきた。


「ちょっと失礼しますね」


 一言声をかけてから、すかさず背後に回る。

 何事かと驚くヒマも与えず、お腹の辺りをギュッと抱きしめる。

 押し付けた乳房がむにゅっと潰れ、制服ごと形を変えた。

 ふわっと漂うつぐみさんの匂いが鼻孔をくすぐり、興奮を誘う。


「ひゃっ!? み、美夢ちゃん、急にどうしたの?」


「こうすれば温かいと思ったんです。ほら、冬の廊下は寒いですから」


 動揺するつぐみさんに、行動の意図を説く。

 こうしている間にも胸への刺激が快感という名の暴力としてわたしの理性を攻撃しているけど、どうにか耐える。

 迂闊にも先日胸を揉んでもらったことを思い出し、体の奥がじゅんっと熱くなるのを感じた。

 快感を意識し過ぎちゃダメだ。廊下で抱き着いて絶頂するようなことになれば、ドン引きされた挙句にフラれてしまうかもしれない。

 落ち着け、わたし。快感に抗うのではなく、奥へ奥へと仕舞い込むイメージで受け流す。そうすれば少なくともこの場は凌げる。

 溜まりに溜まったドロドロした情欲は帰ってから一人で発散すれば、つぐみさんに迷惑をかけなくて済む。


「う、うん、すごく温かい」


 つぐみさんは気恥ずかしそうな声を漏らしつつ、前面に回されたわたしの腕にそっと自分の手を重ねた。


「ちょっとだけだけど、美夢ちゃんにもおすそ分け……できてる、かな?」


 続け様に告げられた言葉に、コクリとうなずく。

 ドキドキしすぎて、すぐには声が出せそうにない。

 でも、いまなら黙っていても問題はなさそうだ。

 痛いほどに早鐘を打つわたしの鼓動は、まず間違いなく背中越しにつぐみさんへ伝わっている。

 そしてわたしも同じように、自分の物ではない胸の高鳴りを彼女の背中から感じている。

 チャイムがまだ鳴らないことを祈りながら、この幸せな時間を心から楽しむ。

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