第27話 暴虐のアリス5
無防備な空見の首にアリスの手刀が迫る。
だが攻撃直前に、花火が弾けるような音と共に、アリスは身をひるがえし、空見から距離を取った。
そしてゆっくりと振り返ったアリスはプリプリと怒っていた。
「危ないなぁ~。だぁれ? 銃を撃ってきたのは?」
アリスが空見への攻撃を中止したのは、誰かが銃撃してきたからだ。
再び銃声が響く。
アリスの死角から薫が銃撃をぶち込んだのだ。
「……なんで躱せるんだよ」
苦々しい顔つきで薫は吐き捨てる。
後ろに目があるかのように、アリスはわずかに身を反らして銃撃を避けたのだ。
「それ銃でしょ? まっすぐにしか飛ばないならよけるのも簡単だよ~。あっ、そうだ。久々にアレやってみようかなぁ! ねぇ、避けないから撃ってみてよ」
「舐めやがって……!!」
額に青筋を浮かべた薫は撃鉄を起こし、拳銃の引き金を絞る。
心地よい反動と共に、銃声が響く。
その直後、薫はまさかの出来事に驚き、呆然とする。
アリスが銃弾を摘み取ったのだ。
「懐かしい~。昔、銃弾を摘み取る訓練やってたこと思い出すよぅ!」
絶句する薫は魂でも抜け落ちたかのようにぼんやりしていた。
隙だらけで立ち尽くす獲物をアリスが見逃すはずもない。
「これ返すね~」
「あぐっ!?」
薫は腹を抑え、血を吐いて倒れる。
アリスが指で弾いた銃弾が薫の腹に着弾したのだ。
「コレ指弾って技なんだけど、思った方向にうまく飛ばないんだよね~。頭を狙ったのにぃ」
アリスは残念そうな顔で薫に近づくが、はたと足を止める。
「そうだ! 練習しちゃおっかな~。ヒマだし」
そういうとアリスは、周囲の地面にめり込んだ銃弾や、折れた剣を回収すると、薫の正面に立った。
その距離は10メートルほど。
「いっくよ~!」
可愛らしい掛け声と共に、アリスは指弾を放つ。
「ぐがっ!?」
狙いは外れ、指弾は薫の肩に命中した。
「あ~!? もうちょっとだったのにぃ! 」
アリスは折れた剣を素手で引きちぎり、たくさんの小さな破片にすると、手のひらにそれを握りこむ。
「どんどんいくよ~!」
「ぎっ!! あづっ!? ぐぅっ! や、やめっ……!!」
アリスの指弾が、薫の肩や足、腹へと突き刺さっていく。
薫は小さく体を丸め、必死に頭や心臓を守ろうと、両腕で指弾をガードする。
だが20発目の指弾が薫の腕に命中すると、力が入らなくなった両腕は、だらりと垂れ下がった。
薫の手足は真っ赤に染まり、あらゆる箇所に金属片が深く突き刺さっている。
「うん! 狙った所にいくようになったよ~。これで頭を狙えるね!」
「ぁ……」
苦しげにあえぐ薫を見て、何を思ったのか、アリスはくるりと振り返り、まだ無事な冒険者へと笑いかけた。
「ねぇ、おじさんたち。ジャマをしたくなったらいつでもどうぞ~」
その笑みに冒険者たちは震えあがる。
とても薫を助けに行く気概はなさそうだ。
それどころか、そっと逃げようとしている冒険者もいる。
遠く離れた城門付近に、兵長のソルダートが見えるが、市長と揉めているのか、すぐにこちらにはこれなさそうだ。
「かわいそう~! 誰も助けてくれないみたいだよ。残念だったね~」
恐怖一色に染まった薫の表情に、アリスの瞳に嗜虐の炎が宿る。
「さようなら~」
愛らしい声と共に放たれた凶弾。
それは風のように割り込んできた人影に、甲高い金属音と共に打ち落とされる。
防いだのは空見だ。
「あれぇ? お兄ちゃんさっきの人だよね~。致命傷だったはずだけど……」
不思議そうにアリスは首を傾げる。
だがすぐに「なるほど!」と手を打つ。
「回復魔法だね? 珍しい~。あれ? それで強いお兄ちゃん治せばよかったのにぃ」
アリスの言葉に空見が晴れ晴れとした微笑を浮かべる。
一仕事やり遂げた男の顔だ。
「ああ、治しているよ。僕以外の人がね」
その直後、背後で大地が揺れ、地響きが轟く。
振り返るアリスの目には、血まみれの信太郎が立ち上がっていたのが見えた。
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