スタート

「手伝っていただきありがとうございます。」


咲と白斗は資料室に到着し、荷物を一通り片付け終わっていた。白斗は、腕時計を見て時間を確認する。


「いえいえ、こんな俺でも役に立てて良かったです。あ!やばいそろそろ行かないと。んじゃ!」


彼は咲に挨拶すると、そそくさと社長室に向かって行った。


「変わらないな…」


彼女は、彼との昔の思い出を思い出しながら、背中を見守っていた。白斗は社長室の前に到着し、ドアを開ける。


「失礼します!」


奥には、スターカラーズの社長である七色仁が、新聞を広げ椅子に座っていた。


「ん…ああ、君がみどりちゃんが言ってた逸材か、まあ確かに面白そうではあるね。」


「いやそんな。」


白斗は少し照れ臭そうに返事をする。すると彼の前に書類が置かれた。そして社長が口を開く。


「この書類にサインしといてね。契約書だから。」


書類には、本人の希望がない限り一年おきに更新が行われることや、公序良俗に反する行為を犯した場合解雇されるなど、芸能活動における注意事項が書かれていた。


「まあ後はみどりちゃんに任せてあるけど、君は新人なんだから、そこをわきまえるように。それから、現場も大事だけどレッスンはしっかり受けるんだよ?芸能界に足を踏み入れた以上、自覚をもって行動すること。わかったかな?」


「はい。わかりました。」


白斗は、思った以上に大変そうだなーと思いながらも、覚悟を決め返事をする。


「とりあえず今日は、事務所内を見学して行くといい。何かあれば連絡するから、30分以内くらいには、何かしら返信してね。これから大変かもだけど、頑張るんだよ。」


「はい。では失礼します。」


社長室を後にして、白斗は時計を確認する。


「もうお昼過ぎてるのか、どおりでお腹がへるわけだ。とりあえず食堂に行ってみるかなー」


「お!結構うまそうじゃん!!」


彼は、食堂に到着するとショーケースをみるやいなや、テンションがあがり声をあげる。


「うるせぇな。」


声がする方に振り返ると、そこには、まるで神に愛されたかのように整った顔をした青年が、けだるげに立っていた。


「おばちゃん、いつもの。」


「はいはい、いつものね。ちょっと待ってててね。」


青年は、けだるそうにしながら席に着く。


「なんなんだあいつ。どこかでみた気もするけど腹立つ。イケメンのくせに、暗い感じの態度とりやがって。まあ、明るいイケメンも嫌いだけどな。つまりイケメンが嫌い。」


白斗がぶつぶつ言っていると、後ろから声がしたので、彼は振り返る。


「白斗くん。やっとみつけた!ここにいたんだね!!」


そこには、とても嬉しそうな顔をしたみどりが立っていた。


(あー幸せだー生まれてきて良かったー!彼女に出会えたのはもう運命だー!!)


そんな彼女をみて、彼は一気に平常運転にもどる。


「ん?どうしたの?」


「あ!いえ!なんでもないです!!どうしたんですか?」


「急だけど明日、エキストラの仕事とれたから伝えたくて。」


「まじですか!やった♪」


「うん!ほんと!うちの事務所の咲ちゃんも一緒よ。」


「まじですか!咲ちゃんも!」


「ん?咲ちゃんのこと話したっけか私。それとももとから知り合いだった?」


「あ!いえ、さっきそこでばったり会って。」


「あらそうなのね。あの子かわいいでしょ!これから売り出そうとしている、期待の新人ちゃんなの。もちろん君もだけどね。」


「そうなんですね。明日、とても楽しみです。頑張ります!」


「うん!じゃあ詳しい内容は、後でメールしとくわね。ごはん食べるとこ邪魔してごめんね。」


「いえいえ!ではまた。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る