第3話 ルッコラの秘密

この町名産のルッコラにはちょっとした秘密があるらしい。


そんな噂を聞きつけて、思い立っても居られず飛び出した。ネットで調べても噂以上のことはわからない。まずは道の駅にでも行ってみようかと思ったが、あいにく改修中だとかで閉まっていた。車はレンタルで確保したので、町の中心街に向かってみた。


教えられた通りに中心部に向かったが、地方都市ってこんなもんだったか、ってくらい人がいない。いや、いないどころじゃなく、だれ一人歩いていないし、開いている店すらない。おかしい。今気づいたが、通りを走っている車すら一台もない。何かがおかしい。駅で降りてから車を借りたときに会った一人だけ。ああそういえばあの人はどんな人だったっけ。よく思い出せない。車を止めた。思えば信号はずっと青だった。一旦落ち着いてみよう。冷静に、落ち着いて。まず、どうして今ここにいるのか。何をしに来たのか。それがわからない。なぜだ。とてつもない不安が押し寄せる。何かよくない感じがする。落ち着け。落ち着け。駄目だ。眩暈がしてきた。しんどい。苦しい。誰か、誰か。


この町名産のルッコラにはちょっとした秘密があるらしい。


その秘密は誰も知らない。秘密は秘密のまま。ルッコラはルッコラのまま。今日もどこか別の場所でこの町で採れたルッコラが消費され、溶けていく。一体となって、混じり合って溶けていく。そうしてルッコラは人に、人はルッコラになる。生まれも育ちも肌の色も関係ない。みんなが緑に染まる。ルッコラになる。ルッコラは生きている。今も君の隣で、君と並んで二人、いや二束のルッコラが水を滴らせて風にゆれている。秘密のルッコラが。

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